ドラレコに頼る正義 久保田 正広

西日本新聞 オピニオン面 久保田 正広

 わが家にも「ドラレコ」がやって来た。そう、車のフロントガラス内側に備え付け、事故や駐車中のトラブルなどの映像を記録する装置。ドライブレコーダーである。

 「あおり運転」の恐怖に耐えかねた家族の強い要望で購入したのだが、なかなかクリアな画質だ。いま急速に普及している理由が実感できる。

 映像の証拠能力の強さは多くの事件で証明済み。だが愛媛県で今年起きた事件では、ドラレコの映像が誤認逮捕のきっかけになった。

 松山市で1月、タクシーの乗客の女が降車時に運転手のバッグ(約5万円入り)を盗む事件があった。タクシーのドラレコに事件の様子が記録されており、警察は降車した場所などから記録画像に写った女の自宅アパートを特定。アパートに住む女子大学生が犯人の女に似ているとして、7月に窃盗容疑で逮捕した。

 ところが女子大学生は2日後に釈放。その後の捜査で別の若い女が容疑者として浮かび、女子大学生は不起訴(嫌疑なし)となった。

 女子大学生の代理人弁護士は「何の証拠もないのに犯人と決めつけた。誤認とさえ呼び難い」との談話を出した。一体どういうことなのか。

 愛媛県警が10月に明らかにした調査報告によると、タクシーには男女計4人の乗客がいて、助手席の女がバッグを盗む様子が記録されていた。この女に女子大学生が似ていると思い込んだ捜査員は同乗者の捜査すらしなかった。

 付近の防犯カメラに記録された女の財布や携帯電話の特徴が女子大学生のものと異なるのに、その点も調べていない。タクシー内の音声データに残された女の愛称は氏名を簡単に推測できるものだったというが、これを捜査員は正確に聞き取っていなかった。

 耳を疑う手抜きぶり。普通なら、この捜査員の上司が指導監督して誤認逮捕は避けられそうな気もするが、県警は「チェック機能が欠如していた」と繰り返すばかり。こんな捜査に裁判所が逮捕状を出した事実も深刻だろう。

 この一件は極端な例外なのか。旧知の警察OBに尋ねてみると、防犯カメラを中心に映像に頼る捜査が広がっており「証拠となる画像さえあれば一丁上がりとの意識もはびこっている」という。

 実際、ドラレコや防犯カメラの映像を見誤ったことによる誤認逮捕が各地で相次ぐ。犯行や現場が一目瞭然なだけに映像は過信を生みやすい。

 さて、わが愛車のドラレコに今のところ「正義の味方」としての出番はない。抜かないままの「伝家の宝刀」にしておきたい。 (論説副委員長)

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