Y字路たどる台湾の旅 小山田 昌生

西日本新聞 オピニオン面 小山田 昌生

 南国の日差しを和らげる緑濃い街路樹、歩道にせり出して積まれた果物や乾物、なじみの客と世間話をしている老舗の主人-。台湾の古い街を歩いていると、どこか懐かしさを感じる。そんな街に秘められた歴史を探るエッセー集「時をかける台湾Y字路」(図書出版ヘウレーカ)を、台北在住のライター栖来(すみき)ひかりさんが10月末に出版した。かつての水路や線路の名残を示すY字路を鍵に、時間旅行へいざなってくれる。

 この本は2年前、台湾で先に刊行された。当時、本紙の台北支局長だった中川博之記者は、取材を兼ねて栖来さんとY字路を巡った。その4カ月後、中川記者は交通事故でこの世を去ったが、こんな書き出しで記事を残している。「台湾の古い路地には左右に分かれるY字路が多い。背景には百数十年の間に清、日本、中華民国と統治者が入れ替わり、人々の暮らしが急激に変わった歴史があるという」

 台湾には総統府(旧台湾総督府)など、日本統治時代の建物が数多く残っており、説明板には日本人の設計者名や用途の変遷が記されている。「日本が統治した時代も私たちの歴史なんです」。台湾で取材した郷土史家の言葉からは、外来者の支配に適応しながら生活基盤を築いてきた台湾人の自負もうかがえる。

 文部科学省の2017年度調査によると、高校生の海外修学旅行先の1位は台湾で、332校、5万3603人に上る。日本各地から直行便が飛び、気軽に異文化を体験できるだけでなく、日本人の足跡に触れられるのも特徴だ。半世紀に及ぶ日本の統治が、領土拡大から戦争へ突き進んだ時代と表裏一体だったことも忘れてはいけない。

 ここ数年、訪台者数のトップを占めていた中国は今年8月、台湾への個人旅行を突然禁止した。3年間で7カ国が台湾との外交関係を断ち、中国と国交を結んだ。中国が目指す「一国二制度による統一」を一貫して拒否する台湾・蔡英文政権を、中国はさまざまな圧力で揺さぶっている。

 台湾では年明け、4年に1度の総統選挙がある。巨大な中国にのみ込まれず主体性を守るのか、中国に歩み寄って実利を狙うのか、台湾社会はまさに「Y字路」に差し掛かっている。一国二制度の下に置かれた香港の現実を、人々は注意深く見守っている。

 日本人にとって台湾への旅は、過去を知るとともに、民主主義や東アジアの将来について考えるヒントにもなる。グルメや観光地巡りだけでない「大人の修学旅行先」としても、台湾は格好の地だろう。 (クロスメディア報道部)

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