筥崎宮そばに「水族館」? 戦前の施設しのぶ喫茶室

西日本新聞 ふくおか都市圏版 手嶋 秀剛

 秋祭りの放生会(ほうじょうや)で知られる筥崎宮(福岡市東区箱崎1丁目)のそばに「箱崎水族館喫茶室」という、一見場違いな名前の喫茶店がある。「なぜこんな店名なんだろう」。通りすがる人も、ちょっと気になるネーミングだ。こんなところに水族館でもあったんだろうか。あれこれ想像するより、実際に訪問した方が早そうだ。

 店内に入ると、まずは壁一面に張られた古い写真の絵はがきが目に飛び込んできた。木製の調度や内装が落ち着いた雰囲気を漂わせ、奥にはピアノもある。店では演奏会や講演会のほか、ドキュメンタリー番組の上映会なども催し、まちの一角から文化を発信しているという。

 絵はがきを一つ一つ見ていくと、荘厳な門構えの建物が写った1枚があった。何と、その看板には「箱崎水族館」の文字が。そばには水槽をのぞき込む日本髪の女性の写真もあった。「本当にあったんだ…」。驚く記者に、店主の花田典子さん(63)がほほ笑んだ。「箱崎には戦前、九州初の水族館があったのです。私は、その館長のひ孫です」

 箱崎水族館は1910年、明治政府の殖産興業を推進する博覧会「九州沖縄八県連合共進会」に合わせ、地元財界人が出資し、博多湾を望む箱崎浜に開館。水槽に近海の魚を展示したほか、南洋産のワニなどもいたという。行楽施設として親しまれたが、国道建設に伴って35年に閉館した。

 水族館があった場所から1キロ余りの通り沿いに、花田さんが夫の宏毅さん(64)と喫茶室を開いたのは2009年。館長だった曽祖父の故久保田知俊さんや水族館の足跡を知りたくて、地元で店を始めたという。

 「曽祖父は優しい人で、見学に来た子どもたちに自ら魚の説明をしていたそうです」。開店直後、典子さんは近所のお年寄りから聞いた。絵はがきの写真では「オットセイ」と紹介されていた動物が、実は絶滅したとされるニホンアシカだと、常連客の専門家が教えてくれた。「店を開いたおかげで、埋もれていた箱崎水族館の話をたくさん聞けました」と花田さん。

 箱崎には戦後、“2代目”の水族館も建った。花田さんの記憶にもある施設は、1957年開館の福岡水族館。当時は珍しかったペンギンを飼育。観覧車などの遊具もあり、夏にはプールもオープンしたが、1968年に閉館した。

 「教養を身につける水族館から、文化を発信した曽祖父。形は違いますが、私も箱崎で同じようなことをしていますね」と花田さん。「会ったこともない曽祖父ですが、今では、いちばん身近に思える身内です」と笑った。箱崎水族館喫茶室=092(986)4134。

 (手嶋秀剛)

福岡県の天気予報

PR

福岡 アクセスランキング

PR

注目のテーマ