ネット上で見守る仕組みを 自己防衛より重要に Hagexさん事件の教訓

西日本新聞 社会面 梅沢 平

 「ネット史上に残る事件」-。ネット上のやりとりだけで面識のない人を殺害した事件は、今も波紋を広げている。ネットはもはや生活に欠かせない半面、犯罪などにつながるリアル(現実)な不安材料としてとらえる人も増えている。自由な言論空間を最大限尊重しつつ、凶行を防ぐ手だてはないのか-。専門家は「ネットの中でも、福祉的な仕組みを考える時期に来ている」と語る。

 2015年ごろからネット上で他のユーザーを「低能」などと中傷を繰り返し、「低能先生」とやゆされていた松本英光被告。公判では、有名ブロガー「Hagex」として活躍していた被害者岡本顕一郎さんだけでなく、自分を批判する他のユーザーも殺害対象リストに入れていたと告白した。「『殺してやるとしたら』と優先度も付けた」と淡々と語った。

 「私もリストに載っているんだろうな」「どう考えても逆恨みだわ」。公判がニュースで紹介されると、松本被告と岡本さんが利用したサイトにユーザーから書き込みが相次いだ。

 総務省がネットの相談窓口を委託する「違法・有害情報相談センター」によると、18年度の相談件数5085件のうち、名誉毀損関連は2359件と半数に上った。内閣府の世論調査(17年)では、犯罪に遭う不安を感じる場所(複数回答)として「ネット空間」が61・1%となり、初めて「繁華街」(54・3%)や「路上」(47・6%)を上回った。

 被告は「死ね」「ウジ虫」などと他のユーザーを激しく罵倒するたびにサイト運営会社から「不適切な投稿」としてアカウントを削除され、その回数は500回にも上った。行動は常軌を逸していた。ただ、爆破予告や特定の人物への具体的な脅迫などと異なり抽象的な内容のため、刑事事件として摘発は難しいとみられる。

 岡本さんは、昨年5月、「低能先生」の嫌がらせ行為を紹介するブログで「運営会社は低能先生を業務妨害で訴えるべき」と発信。被告の迷惑行為を同社に通報するなどして、逆恨みされた。

 神戸大大学院の森井昌克教授(情報通信工学)は「事件は衝撃的だった。怒りがネット上にとどまるのではなく、現実社会で(怒りを抱いた人から)攻撃されるリスクを考えていかなければならない」と指摘。「自由な書き込みは裏返せば、どう受け取るか相手次第という面もある。危険性を認識した自己防衛がより重要だ」と語る。

 ネット上のトラブルに詳しい唐沢貴洋弁護士は「被告は居場所のサイトから追い出されて孤独を感じ、破壊行為(殺人)に至ったのではないか」と分析する。

 アカウント凍結や削除で追放するのは、サイト管理上の措置。ネット上の異常行動に対し、現実社会のようなセーフティーネットはない。唐沢弁護士は「問題のある投稿者でも包み込んで支えたり、受け止めたりする方策(プログラム)が必要ではないか」と提起した。(梅沢平)

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