ハンセン病元患者、遺族の無念代弁 再審求め「この道しか」

西日本新聞 社会面 中原 興平

 熊本地裁で20日に結審した「菊池事件」の再審請求を巡る国賠訴訟。提訴したのは「第三者」である元患者たちだ。異例といえる裁判に、専門家も「勝訴は容易ではない」と口をそろえる。それでも高齢の元患者たちが闘ってきたのは、差別と偏見にとらわれた審理の是非を問う手段が、他に残されていないからだった。

 「多くの法曹関係者や友人から『そんなむちゃな裁判はできない』と言われました」。20日、地裁前の集会。原告弁護団の徳田靖之・共同代表は打ち明けた。

 原告は熊本県の国立ハンセン病療養所菊池恵楓園の入所者ら6人。主張のあらましはこうだ。

 有罪の証拠には問題が多い上、特別法廷で差別に満ちた憲法違反の審理が行われた。男性の遺族が今なお差別を恐れて再審請求ができない現状で、検察官が再審を求めないのは違法。元患者全体に対する人権侵害で、患者として男性と家族同然だった原告たちも精神的苦痛を受けた-。

 これに対し、国側は「家族でもない原告に、そもそも損害賠償を求める権利はない」などと反論する。

 法律上、賠償請求ができるのは原則として、被害を受けた本人や家族に限られる。元判事の水野智幸・法政大法科大学院教授は「原告側の思いは十分に理解できるが、勝訴のハードルは相当に高い」と話す。

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 「法廷は消毒液のにおいがたちこめ、被告人以外は白い予防着を着用し、ゴム長靴を履き、裁判官や検察官は手にゴム手袋をはめ、証拠物を扱い、調書をめくるのに火箸を用いた」。国の第三者機関「ハンセン病問題に関する検証会議」が2005年に出した報告書は審理の様子をそう記す。

 弁護団によると、男性は無実を主張したのに、当時の弁護士は「何も申し上げることはありません」と話し、検察側が提出した全ての証拠に同意した。弁護人不在とも言える状況で、検察側の証拠を批判する手段も機会もなかった。「裁判の名に値しない。弁護人も感染を恐れ、一刻も早く審理を終えたかったのではないか」と弁護団は言う。

 憲法37条1項は、全ての被告人が公平で公開の裁判を受ける権利を保障する。

 ハンセン病を理由とした特別法廷は1948~72年に95件。菊池事件は唯一の死刑事件とされる。公開されていたと言えるか。違憲ではないか。元患者たちは司法の検証を求めてきた。

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 2016年の調査報告書で最高裁は、有識者委員会に憲法違反の疑いを指摘されながらも、傍聴は不可能ではなかったと説明。個々の裁判の当否にも踏み込まなかった。検察も17年に「再審請求すべき事由は認められなかった」として元患者らの要請を拒否した。

 「密室の法廷」を歴史の闇に葬らせないために-。国賠訴訟は最後の手段だった。約2年間の審理で原告は意見陳述を重ね、裁判所も恵楓園などを視察した。

 原告らは述べている。「私たちを故郷の家族から引き離し、入所者同士が大きな家族として生きることを強いた張本人が国。(男性は)私たちの家族に他ならない」「再審請求しないことが許されるのか、裁判所の判断を仰ぎたい。私たちにはもはや、この方法しかありません」 (中原興平)

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