聞き書き「一歩も退かんど」(25) 鹿児島弁通じぬ検察 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 志布志事件で逮捕・送検された私は、2003年の夏の盛りを鹿児島南署の留置場で過ごすことになりました。ひどい環境かと思いきや、冷房も入っています。雑居房の同居人2人と身の上話に花が咲いたことは前回、話しましたね。「おーい、3号室。うるさいぞ」と担当官にしかられても、ひそひそ声で会話を続けました。

 雑居房では1日3冊まで本や雑誌の閲覧が認められていました。狭い運動場で体を動かした帰り、留置場の図書置き場から持ち込むのです。びっくりしたのが成人向け雑誌が並んでいたこと。これで性欲を刺激し「早く外に出たい」と思わせることで、容疑を認めるよう仕向けているのでは、と勘繰りたくなります。

 驚いたことに、志布志事件で最初に逮捕された藤元いち子さんが6号室に収容されていることも分かりました。うまそうなにおいのする出前のラーメンを担当官がよく6号室へ運ぶので、相部屋の大学生が「だれに持っていくんですか」と尋ねると、「藤元いち子だ」と答えたのです。

 県警の取り調べは午前8時半~正午と、午後6~8時の1日2回。もう前のようにきつい追及はなく、ほとんど世間話でした。私は商売人ですので、ある刑事から「いずれ居酒屋を出したいが、どう思う?」と相談されもしました。

 鹿児島地検での聴取は午後1~5時。きつかったというか頭に血が上ったのが、T副検事の調べ方です。私の訴えを全く聞こうとせず、「君、(買収会合の舞台とされた)四浦(ようら)に行ったんだろう。司会したんだろう」の繰り返し。「認めたらお盆には家に帰れるぞ」と言うので、「お盆は来年もありますよ」とやり返すと、怒りました。

 鹿児島弁も通じません。私が「おいが話きっとがあたいまえじゃねえか」と少し声を荒らげても、きょとんとしています。補佐の職員が「私の話を聞くのが当たり前じゃないか、と言っています」と通訳すると「なるほど」。茶番ですね。

 そもそも検察の大事な役割は、警察とは違う視点から調べ直し、送検容疑が真実か見極めることではないでしょうか。だからこそ検察官には刑事裁判を起こす大きな権限が与えられているはずです。でも、T副検事は県警の筋立てに乗っかってうその自白を引き出そうとするだけでした。志布志事件という未曽有の冤罪(えんざい)を引き起こした重い責任は、検察にもあると私は思います。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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