日本のSNSにアクセス不可?中国の現代版”長城”で「壁越え」してみた

西日本新聞 坂本 信博

 日中関係が改善する中、北京に旅行予定という福岡市の女性から「現地でインスタグラムに画像を投稿したいけど、日本で使っているSNS(会員制交流サイト)にはアクセスできないと聞きました。どうして?」という調査依頼が西日本新聞「あなたの特命取材班」に届いた。九州から東京に行くよりも近い隣国の現状を確かめるべく、現地へ飛んだ。

 巨大な北京首都国際空港に到着して早速、日本から持参したスマートフォンを空港の公衆無線LANのWi-Fiに接続してみた。やはり、フェイスブックやツイッターのほか、米IT大手グーグルや日本のヤフーの検索ページも開けない。

 これがうわさのグレート・ファイアウオール(防火長城)か。世界遺産の万里の長城(グレート・ウォール)にちなんでそう呼ばれるインターネット検閲システムだ。万里の長城は騎馬民族・匈奴の侵入を防ぐため時の権力者である秦の始皇帝が築いたと伝わるが、防火長城は中国政府が関与しているとされる。

 わいせつ画像、違法薬物や銃器の販売情報、さらには反体制運動に関する情報などを遮断し、当局が有害と指定したウェブサイトを中国国内で閲覧できないようにするためだ。

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 公衆無線がだめなら、日本から持参したVPN(仮想私設網)接続対応のWi-Fiはどうか。すると、あっさりフェイスブックにアクセスできた。

 空港から北京市街へ。VPN接続した上でスマホを使ってみると、中国国内では使えないはずのグーグルやヤフーでの検索、あなたの特命取材班のLINE(ライン)、動画投稿サイトユーチューブにも自由にアクセスできた。ただ、なぜかWi-Fiがつながらない時も。政府の重要施設がある地域なのだろうか。

 中国のネット事情に詳しい現地在住の日本人によると、中国国内には「壁超え」と称してVPNで制限をすり抜ける人も少なくなかったという。そこで当局は2017年1月、許可を得ていないVPN開設を禁じる通知を出した。

 その年の6月には「インターネット安全法」が施行され、同年10月からネット利用者の実名登録や事業者に当局への協力を義務付け。SNSのグループ内のやりとりを監視し、警察を侮辱する投稿などの法的責任を問う制度も導入された。

 さらにVPN接続への規制も強化。中国国内でiPhone(アイフォーン)を普及させている米アップルも、日本版ではダウンロード可能なVPN接続アプリを、中国版のアプリ配信サイトから削除した。

 今年10月1日、中国建国70周年の国慶節(建国記念日)を迎えたのを機に、規制がさらに厳しくなったという指摘もある。VPN接続サービスを一時停止した中国国内の業者もある。

 ネット規制を所管する工業情報省は9月の記者会見で、規制強化の有無について明言を避けた上で「一般国民が見るには適さないものがある」と説明。さらに、香港での抗議デモが激化している影響もあり、これまで使えていたVPNサービスが使えなくなったり、つながりにくくなったりしているという。

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 現地の人々はどうしているのか。中国の新聞社の男性記者は「VPN接続をすること自体は違法じゃない。報道関係者は海外の情報を把握するのにVPN接続をして日本や欧米のネットサイトも閲覧しているが、おとがめはない」と話す。

 最近は、人工知能(AI)を駆使して当局が指定した用語を自動的にチェックする仕組みもあるという。

 そこで「新疆ウイグル自治区」や「人権派弁護士」といった、当局にとって“敏感”な言葉が入った日本の新聞記事を転記したメールを、北京から日本に送る実験をしてみた。

 同じ文面のメールを、VPN接続のWi-Fiと現地ホテルの無料Wi-Fiでそれぞれ送ってみたところ、VPN接続で送ったものは数秒で届いたが、無料Wi-Fiの方は何日待っても届かなかった。一方、「お元気ですか」という当たり障りのない文言だと、どちらも即座に届いた。

 やはり現代版の「万里の長城」は、目には見えないけれど、厳然とそびえているようだ。

 「情報の管理は今に始まったことじゃない。広大な中国大陸を統治するために、歴代王朝がやってきたこと」。かつて中国メディアで働いたことのある在日中国人の男性(46)はそう言って、春秋時代の軍略家がまとめたとされる「孫子の兵法」の一節を挙げた。

 「百金惜しみて敵の情を知らざる者は不仁の至り」(情報収集への投資を惜しんで、敵の動きをつかもうとしない者は指導者失格だ)

(坂本信博)

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