12月1日世界エイズデー 今も偏見と差別 薬で発症抑え、感染防げる

西日本新聞 新西 ましほ

 12月1日は世界エイズデー。かつては「死の病」といわれたが、治療薬が飛躍的に進歩し、HIV(エイズの原因となるウイルス)に感染しても投薬で発症を抑え、通常の生活が送れるようになった。一方、感染している人への偏見や差別は根強く残り、就職や人間関係で悩みを抱える人は多い。

 関東地方に住むイサムさん(32)は3年前、家と仕事を同時に失った。勤務先のゲイバーのママに、HIVに感染していることを知られたからだ。「(隠していたことを)訴える」「同じ家で暮らせない」と言われ、居候先のママの家を身一つで飛び出した。

 生まれ育った熊本には、帰る場所がない。約3カ月間、ネットカフェを泊まり歩いた。所持金が底を突き「このまま電車に飛び込んでしまおうか」と思い詰めていたときに支えてくれたのが、HIV陽性者らを支援するNPO法人「ぷれいす東京」だった。

 イサムさんは、相談を重ねて生活保護を受給するようになり、心療内科でうつ病の治療も始めた。免疫機能障害として身体障害者手帳も取得。ようやく心身が安定してきたため、自立を目指して障害者枠での雇用を視野に就職活動中だ。

 「支援を受けていなかったら、命を絶っていたかもしれない。24歳で感染が分かったときよりも、陽性だからと拒絶されたときの方が深く傷つき、立ち直るのに時間がかかった」と振り返る。

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 「医学の進歩によって、今やHIVに感染しても感染していない人と同じくらい長生きでき、普通に働き、セックスや妊娠、出産も可能だ」。日本エイズ学会理事長を務める熊本大ヒトレトロウイルス学共同研究センターの松下修三教授は説明する。

 HIVは血液や精液、膣(ちつ)分泌液に多く含まれ、主な感染ルートは性交渉、血液感染、母子感染だ。ただ、服薬を続け、血液中のウイルスが検出できなくなれば、他人へ感染させることはなくなる。性交渉時にコンドームをつけなくても、感染しないことが研究で明らかになっている。

 しかし、正しい知識は十分に知られていない。内閣府が昨年公表した世論調査では、エイズは死に至る病と誤解している人が半数以上。北海道では、感染を告げなかったことを理由に30代男性が採用内定を取り消され訴訟になった。国のガイドラインではHIV感染は就業禁止や解雇の理由にならないと定めており、9月に男性側が勝訴した。

 陽性者の交流会「notAlone Fukuoka」(福岡市)代表の灰来人(はいらいと)さんによると、参加者の多くが周囲の無理解や偏見に苦しみ、職場でも悩みを抱えているという。歯科や透析治療での受診拒否や高齢になって福祉施設への入所を断られるケースもある。「薬の飲み合わせが大丈夫か心配でも、受診拒否が怖くて相談できない。医療機関は正しい知識を持ち、レッドリボン(HIV/エイズへの支援のシンボル)を掲げるなど、目に見える形で安心させてほしい」と求める。

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 厚生労働省の統計によると、2018年に新たに報告されたHIV感染者とエイズ患者数は1317人で、九州は144人。エイズ発症によってHIV感染に気付くケースが東京では2割なのに対して、九州では4割を超える。

 松下さんは「HIV検査が不十分だということ。早期発見、早期治療は個人にとっても社会にとっても大きな利益をもたらす」と指摘する。検査はほとんどの保健所において無料・匿名で受けられるが、地方都市では顔見知りに会うことを恐れ、足を運びにくいという人もいる。

 東京では、夜間や土日に検査を受けられる保健所があり、検査キットを無料配布するHIV啓発施設もある。松下さんは「医療機関での検査や郵送検査など、機会の多様化を図ることで検査の敷居を下げる必要がある」と強調する。

 ぷれいす東京の生島嗣(ゆずる)代表は「性へのタブー意識から、性感染症であるHIVについて語りにくい。多様な性への理解も含めた性教育を充実させることが、感染を減らし、偏見や差別の解消につながるのではないか」と問い掛ける。

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 日本エイズ学会は29日午後3時40分から、熊本市の熊本城ホールで市民公開講座「性感染症と社会の未来」を開く。学術集会に合わせたイベントで、識者がエイズや性感染症の現状、性の文化史などについて語る。予約不要、入場無料。

(新西ましほ)

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