小さな手に「安心」を 園児向け弁当専門店「レモン」社長 秦善尚さん

西日本新聞 ふくおか都市圏版 今井 知可子

 今日のお弁当、何だろう? 小さな手がふたを開ける-。そんな光景を思い浮かべながら、朝4時から湯気の中に立つ。炊きたてご飯にしょうゆ味の具を混ぜ込む甘いにおい。見た目はちょっと地味だけど、旬の野菜や乾物、天然だしで作ったおかずを、小さな弁当箱に一つ一つ詰めていく。

 配膳台にずらりと並んだカラフルでやや小さな弁当箱。秦善尚さん(63)が保育園や幼稚園など園児向けの弁当を作るようになって10年になる。有機栽培の野菜、昔ながらの製法で作られた調味料、昆布やかつおぶしなど天然だし。「味覚の発達最中にある子どもたちに、できるだけ食材そのものの味を届けたい」。この日のおかずは焼きそば、鶏ささみカツ、キノコのあえもの、コールスローサラダ。9時すぎに発送を終え一息ついた。

 20代初め、大阪に出て社会人3年目に体調を壊し、故郷の福間町(現福津市)に戻った。リハビリを兼ねて始めた弁当店でのアルバイト。調理を任され、面白くなり、10年後には独立して福岡市に店舗を出した。

 同じ頃、がんが見つかった父親の闘病生活が始まった。少しでも痛みを和らげてあげたいと食事療法を勉強した。無農薬野菜や天然だしについて学ぶうちに、それまでの弁当に疑問が湧いてきた。

 肉じゃがを作るのに、だし風味の粉末や化学調味料を無造作に入れていた。「原料が何かも分からない。これはいかんのでは」。化学調味料や冷凍食品を全部やめて天然素材に切り替えたが、今度はコストが掛かりすぎ、見た目も地味で売れない。赤字続きで弁当作りがつらくなってきた。

 たまたま幼稚園向けの発注が入った。「どんな顔で食べてくれるんだろう」と思いながら配達した。

 「くぎが入っとう」。ある幼稚園で、弁当箱のふたを開けた園児が声を上げた。実際は長ヒジキの煮物。乾物を食べる機会がなかったのか、初めて見たという。おそるおそる食べた子どもは、数カ月後にはヒジキが大好物になったそうだ。

 「レシピを教えてほしい」と保護者に頼まれることも。卵、乳製品を使っていないので、アレルギーのある子どものため自宅でも作りたいという。「子どもたちに安心して食べさせたいという思いを、お母さんたちが共有してくれている」。現在は約40園から注文を受け、昨年、古賀市花鶴丘に2号店を出した。

 農家に直接足を運び、旬の野菜の出来具合を見る。折れて出荷できないニンジンなども安く分けてもらい、年間を通じた収入が農家に渡るようにする。

 「食べる子どもたちと、野菜を育てる農家。両者を弁当でつなぐことで、地域循環の輪をつくりたい」。そんな思いを抱きながら、今日も小さなお弁当を作る。 (今井知可子)

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