「いちごさん」勝負の2年目 価格、収量に手応え

西日本新聞 佐賀版 金子 晋輔

 県やJAさがが昨年、20年ぶりの新品種として打ち出した「いちごさん」。意表を突いた名前で話題性が先行した形だが、肝心の品質も市場関係者の評価は高く、単価は主力の「さがほのか」を上回った。関係者が手応えを感じた「デビュー元年」を振り返り、2年目の課題を現場で探った。

 「味も、色も、よか。収量も多く、三拍子そろっている。期待しかない」。みやき町の生産者、森園文男さん(64)はいちごさんを絶賛する。父から農地を引き継ぎ、29年。26アールのハウスはさがほのかからいちごさんに全て切り替えた。

 10年ほど前、さがほのかは1キロ800円台に落ち込んだ。小ぶりで白っぽい実は「店頭で他県産に見劣りしていた」と森園さん。福岡県産「あまおう」は伸び続け、「あまおうを栽培しようかと考えたことがあった」と打ち明ける。苦しい時期があっただけに、いちごさんへの思いは強い。

 いちごさんは、さがほのかより一回り大きく、中まで鮮やかに赤い。果肉のみずみずしさも特徴だ。県などが7年かけて1万5千株の中から絞り込んだ。ネーミングには「あまたあるイチゴのど真ん中に」との思いが込められた。

 デビューは上々。県によると、昨季は1キロ1397円で、さがほのかより132円高かった。収量も多く、10アール当たりの出荷量はさがほのかを4%上回る4554キロ。昨年12月の初出荷では、東京で1箱(15粒入り)1万5300円の高値が付いた。JA幹部は「名前の効果は大きい。他県の関係者からは『やられた』と言われた」と、笑う。

    □    □

 イチゴは全国各地で新品種が開発され、その数は約300に上る。なぜ、これほど競争が激しいのか。

 「イチゴは計算しやすい」。こう語るのは医療器具・農業資材メーカー「アグリス」(福岡県八女市)の中村裕之社長。同社は農家が立ったまま栽培・収穫できる「高設栽培システム」を開発、全国に販売する。

 「10アールであれば売り上げは平均400万~500万円ほど。燃料代はトマトやキュウリのようにかからず、収益性に優れている」と中村社長。最近は地方に残ってイチゴ農家になる若者も少しずつ増え始めているといい、「生産に手間はかかるが、手をかけただけもうかるから、若者を引き付けている」とみる。

 イチゴ栽培に夢を託し、白石町に移住した若者もいる。東京都出身の今井博亮さん(28)。JAさがなどが新規就農を後押ししようと整備した研修施設の1期生として、今年4月からいちごさん作りを学んでいる。

 今井さんは広告会社に勤務していた1月、県が東京で開いたPRイベントで「県全体の本気度を感じた」。以前、番組制作会社で農家を取材したことがあり、農業への関心もあって一念発起した。縁もゆかりもない土地でも「イチゴは加工にも向いているので6次化にも挑戦したい。やり方次第で稼げるのは魅力」と、目を輝かせる。

    □    □

 生産現場に「変革」も見られる。収穫がピークを迎える2~3月のパック詰めは重労働で、担い手減少の一因とされてきた。そこで、この作業を受託する専用のセンターをJAさがが本年度、県中部と東部の2カ所で稼働させた。

 受託料は1キロ400円ほどかかるが、農家にも働き方改革が迫られている。「(人手不足が深刻な中で)若者の就農が増えるきっかけになれば」と森園さんは期待する。

 課題も見えてきた。県は2021年までに、さがほのかが栽培されてきた約150ヘクタールをいちごさんに切り替える方針。これに伴い、生産者は昨季の166戸から21年には600戸超となる。

 2年目の出荷量は3千トンを見込み、1年目の821トンから急拡大する。県の担当者は「えりすぐりの農家で挑んだ昨季でも品質のばらつきはあった。生産者が増える中で、どう品質を維持するかが鍵」と話す。別の県幹部は「どれだけプロモーションに力を入れても味が全て。勝負の2年目になる」と意気込んだ。(金子晋輔)

佐賀県の天気予報

PR

佐賀 アクセスランキング

PR

注目のテーマ