地域に「顔なじみの輪」を 熊本地震 重い障害児・家族の避難どう支えた 

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

■小児科医の島津さん講演

 最大震度7が観測された熊本地震から3年半。大規模災害時に、重い障害のある在宅の子どもたちや家族の避難をどう支えたのか。医療や福祉関係者の証言から、当時の対応が徐々に明らかになっている。5日、福岡県久山町であった公開講座では、国立病院機構熊本再春医療センター(熊本県合志市)の小児科医長、島津智之さん(42)が講演。経験を生々しく振り返り、教訓を語った。

 講座は災害時の地域連携をテーマに、久山療育園重症児者医療療育センターが開いた。障害児支援に携わる認定NPO法人「NEXTEP」理事長も務める島津さん。「災害では、普段弱い立場の人がもっと弱くなる」。淡々とした口調に、危機感がにじんだ。

 停電断水は命取り

 本震に見舞われた未明。島津さんが自宅から熊本再春医療センター(当時は熊本再春荘病院)に駆けつけると、防火扉の多くが閉まっていた。「扉が床とこすれたのか、焦げたようなにおいが辺りに充満していた」。人工呼吸器の子どもや家族が入院していた病棟に向かい、安否を確認した。2日前の前震の後、病院に避難してきた子どももいたからだ。

 人工呼吸器やたんの吸引器は、電源がなくなりバッテリーも切れれば役に立たない。吸引や栄養注入に使うチューブ類はその都度、水で洗って清潔に保つ必要があることなどから、一般の避難所では「1日も過ごせない」のが現状。健常者は「被災後の3日間は救命できる可能性がある」とされるが、電気や水道が止まれば、「医療的なケア(医ケア)が必要な子どもは、すぐ命が危なくなる」。

 非常用電源がある同院では台風被害を想定して約10年前から、呼吸器を使う患者を台風が通過する前日から登録制で「避難入院」として受け入れていた。こうした患者と家族が同院を頼り、本震の翌朝までには子どもたち19人と付き添いの約40人が身を寄せた。

 同院は日ごろから、親の負担軽減を目的に短期入所を行っており、「互いに顔の見える関係ができていた」こともスムーズな避難につながったとみられる。

 建物に大きな被害はなかったが、水道の復旧には約1カ月かかった。家族の食事は病院としては一切用意できない。島津さん自身が自宅から炊飯器などを持ち込み「小児科の食堂で、ご飯とみそ汁を作るなどして対応した」という。

 生きた経験と人脈

 NEXTEPは、重症児の訪問看護や通所施設の運営などを手掛ける。前身は島津さんが大学時代、異業種交流などを目的に発足した団体だ。

 飲料水、レトルト食、厚手のウエットティッシュなど救援物資の確保は、東日本大震災でも支援活動するなど、知人たちと培ってきた経験と人脈が生きた。

 会員制交流サイト(SNS)で募ったところ、芸能人のブログにも転載されて拡散、約40トン分が集まった。関西や東北からも多くの物資が届き「震災を経験した人ほど、被災時に必要なものが分かるのでは」。

 物資の送り先としては福祉や教育支援に携わる昔からの仲間に頼み、北九州市に中継拠点を置いた。被災地に直接送ると「ただでさえ大変な現場で(仕分けなど)プラスアルファの仕事が増えるから」だ。

 その知人は2トンや4トンのトラックを借り、片道4時間半の道のりを10往復し、届いた全ての物資を運んでくれた。その後、医ケアに必要な物資の中継拠点も、知り合いの福岡県久留米市、佐賀県内の計2カ所の重症児向け事業所に置き、車で届けてもらった。

 ただこうしたネットワークは「約20年かけて作ってきたもの」。一朝一夕に構築できるわけではない。

 自助と共助の姿勢

 そもそも病院は避難所ではなく、重症児すべてを入院として受け入れるのは事実上、困難。一方、高齢者や障害者向けの福祉避難所も十分ではなく、結局、車中泊を選んだ家族も少なくなかった。「緊急事態でなじみのない場所に命を懸けて行くのは、重症児や家族にとって難しい決断」であることは間違いない。

 食料や水は3日分、薬品類は1週間分を確保▽自宅にとどまるか、学校や施設など行き慣れた場所に移動するかあらかじめ決め、非常用電源も確認する…。こうした「自助」だけでなく、強調したのは「地域の人を含めたつながり」。今回も「毎日、通所などで送り迎えされている姿を見て、2階に重症児が住んでいると知っていた近所の人が自宅から車での移動を手伝ってくれた」ことがあった。

 「(台風など)予期できる災害で対応できないことを、予期できないときにやることは非常に難しい」と島津さん。医療、福祉関係者だけでなく、支えられる当事者や家族も普段から地域に出て顔を見せていく-。「防災」をキーワードに地域づくりを考える姿勢と覚悟が求められている。

 (編集委員・三宅大介)

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