聞き書き「一歩も退かんど」(28) 妻の機転、テープ守る 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 前回の親友に引き続き、今回は照れくさいのですが、愛妻の話です。13人が起訴された志布志事件で私が起訴を免れたのは、妻順子の行動力も一因です。

 まず妻は、私が鹿児島県警に「踏み字」を受けた際、5回も志布志署に抗議の電話をかけました。そして、一部始終をカセットテープに録音したのです。

 「焼酎も何も配っていないのに、夫がなぜこんな目に遭うのですか」。妻は切々と、それでいて根気強く訴えました。応答した署員は「うちの署の者は皆、川畑さんには良くしてもらったと言っています。ただ、県警本部の人や、偉い人の命令には、従わないといけないのです」と、済まなさそうに話しました。

 その約1カ月後、自宅とホテルに家宅捜索が入った際、妻はとっさの行動に出ます。テープを押収されないよう、捜査員の隙を見てホテルの調理場の床に落とし、冷蔵庫の下に蹴り込んだのです。妻が守ったテープはその後、テレビニュースなどで流され、捜査の強引さを世に問うことができました。

 もう一つ、妻の行動力に驚いたことがありました。私が連日の取り調べを受けていた2003年6月8日の夜。妻のいとこが訪ねてきて、九州管区警察局(福岡市)に相談する手があると教えられたのです。警察局は、各府県警を指導監督する警察庁の地方機関。そこに鹿児島県警の不当捜査を訴えるのです。

 いとこが「幸夫さんは取り調べで動けない。順子さんが電話すれば」と勧めると、妻は「直接訴えたい」。同様に夫が不当聴取を受けている女性らも誘って、自宅前に見張りの捜査員がいなくなった午前0時ごろ車を出しました。

 福岡に着いたのは9日午前6時ごろ。レストランで時間をつぶし警察局へ。妻は「鹿児島県警がありもしないことで夫を引っ張り、何時間も調べている。踏み字もされた」と、「F」と名乗る担当者に訴えました。

 帰ってきた妻は再度の家宅捜索を恐れ、職員の名をメモには残しませんでした。台所の流しの下にある戸棚の裏に「F」とマジックで書き、記録しました。

 私が不起訴になった理由は不明ですが、警察組織は上下関係が厳格なので、警察局への妻の「直訴」も少しは効果があったのでは。

 それにしても、本当に度胸のある妻でしょう。「F」の文字は今もわが家の流しの下に、志布志事件の勝利の印として残っています。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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