駅舎の片隅 誘う匂い 左石駅 

西日本新聞 佐賀版長崎・佐世保版 宮崎 省三

松浦鉄道 ひと巡り(3)

 松浦鉄道(MR)の左石駅(長崎県佐世保市)に入ると、香ばしい匂いがする。元をたどると、駅舎の中で営業するたこ焼き店。その名も「駅たこ」。1坪半ほどの狭い店で、森住明さん(55)が汗を拭いながら、軽やかな手つきで真ん丸に焼き上げていく。

 森住さんは以前、左石駅周辺で駐車場管理の仕事をしていた。あるとき、ふと考えた。「駅の活性化のために何かできんやろうか」。駅前には佐世保市役所大野支所がある。一帯は病院や学校が多い。駅には大衆食堂もあるが、さまざまな人が行き交う割には殺風景に見えた。

 目に留まったのが待合室の一角を仕切った小部屋。仕事仲間とアイデアを出し合い、部活帰りの高校生たちが寄り道して小腹を満たす駄菓子屋代わりに、たこ焼き店を始めようと思い立った。MRも快諾し、2002年9月、小さな店が誕生した。

 イチかバチかだったが、狙いは的中。多くの高校生が立ち寄り、口コミで人気が広がった。6個入り150円の破格値。「売れても売れても、もうけは無かった。きつかだけです」と森住さんは当時を振り返る。開店5年後に200円、消費税率が8%になった14年は250円に値上げした。

 やがて店の風景が少しずつ変わっていった。制服姿の客が減った。「列車ば待つ間、ベンチでずっとスマートフォンばいじりよる。今どき、たこ焼き食べて時間つぶす高校生はおらんですよ」と笑う。

 主な客層は、子連れの主婦や作業服姿の男性たちになった。駅前のロータリーに車を止め、ファストフード感覚で買っていくのが駅たこ流だ。

 今年4月、ライバルが出現した。駅舎のホーム側に障害者が働くカフェがオープンした。カレーライス、親子丼、フライドポテト、コーヒーなどメニューが豊富。店内にはレコード盤からレトロな音楽が流れ、店先に置いた電子ピアノを高校生らが自由に弾く。駅の雰囲気は一変した。

 「相乗効果ば期待したとですけど、客層の違うごたっです」。たこ焼き一本の商売は楽じゃない。常連客が「やめんでね」と心配そうに声を掛けることもある。

 「やめたかっち、顔に出とうとですかね」。そう言って豪快に笑い飛ばした森住さん。「もう後に引けんですけん。倒れるまでやるしかなかです」。また豪快に笑った。 (宮崎省三)

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