駄菓子屋のおばちゃんが、冬も戸を閉じない理由

西日本新聞 福間 慎一

 かつて多くの町に点在し、子どもたちの社交場だった駄菓子屋。小遣いをやりくりし、お金の使い方を学ぶ場でもあった。リーマンショックから消費増税、米中貿易摩擦まで、大波小波が日本経済に打ち寄せる中、駄菓子屋は今、どうなっているのか。西日本新聞「あなたの特命取材班」の記者が、過去に取材したことのある店を訪ねてみた。

◇   ◇   ◇

 おばちゃんは元気にしているだろうか。13年前の11月、福岡市城南区別府の商店街で小さな貸本屋を取材した。5円、10円、20円の菓子を目当てに小銭を握りしめた子どもたちが「これいくら」と店内にひしめいていた。2006年といえば、まだスマートフォンがない「ちょっと昔」。店、もう、ないかもなあ――。恐る恐る通りに入ると、あった。前と同じように、戸は開けっ放しだった。

 店主の徳島輝子さん(74)は一番奥に座っていた。奥といっても入り口からたったの2、3メートルほど。「10円ガム? ごめんねもう三つしかないとよ。足が痛うしてね、こげんしてずうっと座っとると」。子どもたちに応じながら、私の質問にも答えてくれる。

 41年前、本好きの姉が開いた貸本店。かつては約5千冊のマンガを2泊3日70円で貸したが、90年代後半から借り手はほぼゼロに。徳島さんは駄菓子も並べて3・3坪(約10平方メートル)を切り盛りしてきた。「徳島貸本店」の屋号を記していた軒先のビニールテントは今、「だがしや」とだけ書かれた物に替えてある。

2006年(左)と、現在の店のたたずまい。軒先のテントが替わった以外に大きな変化はない

 06年の取材当時、徳島さんは軒先に立って、暗くなるまで遊ぶ子どもたちに「早よ帰り」とまくしたてていた。「東北の地震ごろ(11年)から、足が悪くなって座るごとなったと」。営業時間も短くしたという。

 その後、福岡市やその周辺では景気回復に伴って地価が高騰した。「3、4、5、6…マンションがいっぱいできた。近くの店もみんな『お客が来る』って喜んだけど、逆に減ったね」と振り返る。「みんな車で大きな店に出かけて、こっちには来ん」

 5%だった消費税の税率は14年に8%に、今年10月に10%に上がったが、徳島貸本店の商品の価格は変わっていない。ほとんどの商品が軽減税率の対象だそうだが、そもそも徳島さんは3%当時から価格を内税表記してきた。「子どもから(税分を)取られんでしょうが。もし、ちゃーんと取っとったら、今ごろ家が建っとるかもしれんよ」

徳島さん(左端)に商品を持って行き、勘定する子どもたち。軒先には別のグループが菓子を囲んでおしゃべり。13年前の私の記事も店内に張り出していてくれた(パノラマ撮影)

 当時61歳だった徳島さんは74歳。今年6月には脳梗塞になった。商品の名前が出てきにくくなり、問屋の注文時に困ることもあるという。「言葉が出てこんけん、いかんね」。13年という正直「ビミョー」な時間だが、この店にいるとしっかり流れていたことを実感させられる。前に取材した時は29歳だった私も、42歳になっていた。

 「家で怒られんとやろうね。どんどん、言うことば聞かんごとなりよる」とあきれる。騒ぐ、散らかす、帰らない――。徳島さんの小言は止まらないが、子どもたちは構わず店に来続ける。それどころか、聞こえぬふりをしたり、言い返したりする子どもたちの表情はどこか明るい。

 早い夕暮れに吹く風は冷たい。でも徳島さんは13年前と同じように入り口を閉めない。理由は「子どもたちが入るだけで暖かくなる」からだ。そして「足が動かんごとなるまで、店は続けます」と笑った。(福間慎一)

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