首相、改憲戦略に試行錯誤 「任期中施行」に黄信号

西日本新聞 総合面 一ノ宮 史成

 安倍晋三首相が意欲を燃やし続ける憲法改正。第2次政権になってからの発言を分析すると、時々の政治状況を見極め、主張するテーマを変えながら改憲への道筋を探ってきた戦略が見て取れる。歴代最長政権のレガシー(政治的遺産)としたいのは明白だが、国会審議は進まず、党総裁任期の2021年9月までの改正憲法施行には黄信号がともっている。

 今年6月下旬。首相は旧知の保守系憲法学者をひそかに公邸に呼び込んだ。切り出したのは、公示が目前に迫っていた参院選情勢と、その後。自民党など「改憲勢力」の参院議席が、国会発議に必要な3分の2を保つ方策をシミュレーションした。

 「野党を切り崩すのが得策です」。憲法学者が、改憲議論に前向きな国民民主党との連立を念頭に水を向けると、首相は「(与党の)公明党がいるから連立は難しい。でも、閣外協力なら」とうなずいた。直後に行われた党首討論で、首相は早速、「国民民主党にも改憲に前向きな人がいる」と仕掛けた。

 さらに、迎えた7月の参院選。首相は「憲法の議論すらしない政党か、議論する政党かを選んでもらう選挙だ」と訴え、ギアを一段上げた。改憲手続きを定める国民投票法改正案の審議を前に動かす狙い。首相と会食する間柄の政治評論家・屋山太郎氏(87)は、その心中をこう読んだ。「春から、党内外に揺さぶりをかける時期をうかがっていた。『早く自分が前に出ないと時間切れになる』との自覚があったんだろうね」

     ■ 

 12年の政権復帰以降、首相は手を替え品を替え、改憲のメッセージを打ち出してきた=表参照。

 まず打ち出したのが、発議要件を緩和する憲法96条改正。だが、憲法学者から「裏口入学」批判を浴び、公明も慎重姿勢を崩さず、13年の参院選前にはトーンダウンした。

 すると次は、憲法解釈変更に重点を移した。14年に集団的自衛権の行使を容認し、15年に安全保障関連法を成立。畳み掛けるように、非常時に政府へ権限を集中させる「緊急事態条項」の創設に意欲を見せたが、賛同の声は広がらず尻すぼみに。16年の参院選は「憲法」に一言も触れずに圧勝し、初めて衆参の改憲勢力が3分の2を超えた。

 17年5月には、首相は満を持して9条改正提起に踏み込んだ。9条1項、2項を残し、自衛隊を新たに書き加える内容。「公明の主張である『加憲』を取り入れ、相当に練ったアイデアだった」と当時、首相補佐官だった柴山昌彦衆院議員は振り返る。だが-。

 今夏の参院選後、参院改憲勢力は3分の2を切り、首相がいったんは掲げた「20年施行」は極めて困難となった。今臨時国会に至るまで与野党の合意形成の機運は低調で、改憲に向けた環境は整っていない。

 永田町では、首相に残されたカードは憲法改正を大義として国民に信を問う衆院解散だけ、との見方が大勢だ。自民党関係者は「国民の理解が深まっていない中でカードを切れば、多くの同志が討ち死にしかねず、憲法解散はあり得ない」と冷ややかだ。 (一ノ宮史成)

PR

政治 アクセスランキング

PR

注目のテーマ