味覚の授業 「おいしい」は暮らし豊かに 西木美輪さんが体験教室 

西日本新聞 くらし面 国崎 万智

 親子向けの体験教室や小学校などで「味覚教育」に取り組む女性がいる。福岡市城南区の西木美輪さん(44)。幼少期から原因不明のアレルギーに悩んでいた西木さんは、20代で食生活の乱れと過労で体調を崩し、フランス料理店の給仕の夢を閉ざされた。人間が本来備えている感覚を「心豊かに生きる」ために磨く大切さを伝える。

 10月中旬、福岡市博多区の博多小であった「味覚の授業」。西木さんがドライレーズンを指して「鼻をつまんで食べた後、指を放してみて」と指示。「味がしない」と言っていた児童たちは、口々に「おいしい」と反応した。西木さんは「味は舌だけで感じるんじゃないんだよ。口からふわっと鼻に抜ける風味が分かったかな」と語り掛けた。

 西木さんは4年前から、味覚の授業の講師として小学校に出向いている。塩や砂糖、酢、チョコレート、だし汁を使い「基本の五味」(塩味、甘味、酸味、苦味、うま味)を解説。味から連想する食べ物を質問し、口に含んだ味を言葉で表現するよう投げ掛けた。

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 埼玉県出身。子どもの頃、朝食は決まってチョコクリームを塗った食パンと、砂糖がたっぷり入ったココア。完食を強要される給食は苦痛でしかなく、夕飯は大抵、外食かレトルト食品だった。「感情が乏しく常に頭がぼおっとしていた。典型的な現代型栄養失調だった」と振り返る。

 高校生になると、ファストフードやコンビニ食で済ませる。アルバイトを機に飲食の接客業に引かれ、専門学校を出て一流フランス料理店に就職した。シェフと客の間で、料理に込められた愛情と技術の橋渡しをする給仕の仕事が誇りだった。

 しかし食に興味はあっても、自身の健康的な食生活には結び付かなかった。激務がたたりアレルギーが悪化。手の皮はただれて分厚くなり、高熱が収まらず出勤前の点滴が欠かせなくなった。半年足らずで退職。生きる支えを失った。

 パートナーの実家がある福岡に2005年、移住する。飲み続けていたアレルギーの薬を出産のために断ちたくて、無添加食材に切り替えた。単調に感じた味も、うま味の相乗効果が出るよう食材を組み合わせ、香りを楽しんで味わうことで本来のおいしさを感じられるようになった。

 その後開いた無添加食材の料理教室で「濃い味じゃないとまずい」と感じる人が少なくないと気付く。化学調味料に頼り、自然食でできた調味料や食材本来の味が分からなくなっているのでは-。「生きる証しの五感を使っておいしさを感じられるように」と、味覚教室を思い立った。

 「子どもの頃から、心と体に力を与えてくれる食べ物と仲良くしてほしい」。回り道をした身だからこそ届けたい思いがある。

■フランス発 全国に広がる 子どもの関心を高める効果も

 味覚の授業や体験イベントなど、味わう楽しみを知る食育活動「味覚の一週間」は、子どもの食習慣の乱れが社会問題となっていたフランスで1990年に始まった。日本では2011年から毎年開かれている。

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 味覚の授業は、プロのシェフやパティシエらが小学校を訪問。基本の五味を説明し、感覚を研ぎ澄ませて味わうことの楽しさを伝える。授業は全国に広がり「味覚の一週間」実行委員会によると、参加校は11年度の28校(1835人)から、18年度は253校(1万6192人)に増えた。

 単発で行われる味覚の授業だが「子どもたちの味の識別能力や食への関心を高める」とする研究結果もある。福岡女子大の早渕仁美名誉教授(実践栄養学)らの研究グループは15年、福岡県内の小学4年(98人)に、五つの味の溶液と無味の水の計8サンプルを用いて識別テストを実施。味覚の授業の前後で正答率を比較したところ、8問中、6問以上正答した児童の割合は27%から56%に増えた。

 また、小学4年時に味覚の授業を受けた小学5、6年(211人)に、その後の意識の変化を尋ねた。「料理の匂いを感じるようになった」(64%)、「味が気になるようになった」(55%)、「料理や食材に関心を持つようになった」(48%)が多かった。早渕名誉教授は「味を見分ける感覚が鈍くなると、生活習慣病のリスクを高めることにもなる。味覚教育を通じて、食生活を自分でコントロールする力を身に付けてほしい」と期待する。

 農林水産省は16年度の「食育白書」で、味覚の授業を食育推進活動の好事例として取り上げている。 (国崎万智)

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