2度の被災経験、地域史に学び語る 阿蘇ジオパークガイド 鉄村さん

西日本新聞 熊本版 佐藤 倫之

 阿蘇地域の歩みや魅力を観光客に伝える阿蘇ジオパークガイドには、他地域からの移住者も少なくない。元会社員の鉄村拓郎さん(68)は定年を迎えた2011年、首都圏で東日本大震災に遭った。夫妻で移住した南阿蘇村では16年、熊本地震に被災した。2度の被災経験を胸に、地域史に学び、自分なりの言葉で語り続ける。

 鉄村さんは北九州市出身。高校時代に父を亡くし、卒業後はコピー機などで知られる会社に就職。主にレンタル機器管理、顧客サービス部門で働いた。

 福岡勤務時代に美奈子さんと結婚し、英国、マレーシア、中国・上海、ベトナムに計11年駐在。2人暮らしの夫妻は定年を前に人生を話し合うように。海外移住も選択肢の一つだった。

 そんな中、一時帰国した際にドライブで訪れ、気に入ったのが南阿蘇村の分譲別荘地。近くには当時、東海大農学部キャンパスがあり、夫妻は「海外からの留学生をホームステイで受け入れるのも楽しそう」と、移住を決めた。

 11年1月に定年を迎え、南阿蘇村に移住する準備をしていた3月11日。神奈川県のアパート5階で被災。退職後で「帰宅難民」にはならなかったが、引っ越しの荷物は崩れ、車のガソリン調達に追われた。

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 2度目は、南阿蘇村に移住して5年後。16年4月16日、「体がバーンと浮き、暗がりの中、妻の名前を呼んだ」。

 近所の人と身を寄せ、凍える一夜。翌朝向かった避難所は人であふれ、無事だった車で福岡市へ。同年8月からは山鹿市のみなし仮設で2年間暮らし、半壊だった自宅の再建を進めた。

 実は地震の年、ジオパークガイドの資格を得るため、講座を受講しようとしていた。「別荘地って、意外と人付き合いが少ない。阿蘇に住んでいながら、阿蘇をほとんど知らない。これじゃ、いけない」と。

 地震の翌年に計67時間の講座を受け、ガイド活動を始めた。

 27万年前から4度の巨大噴火で生まれたカルデラ地形▽平安時代からの野焼きで保たれている大草原▽江戸時代の参勤交代を物語る石畳▽山岳信仰の対象となり、修験僧が集った中岳火口近くの古坊中…。

 「時間軸をスライドさせながら、それぞれの地に立ち、想像すると、当時の人々や暮らしぶりが浮かんでくるんですよ」

 図書館に通い、専門家の話を聞くに連れ「阿蘇の歴史は、地震や噴火災害との共生、克服の歩みだった」とあらためて知る。

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 別荘地周辺では、地震によって阿蘇大橋が崩落し、大規模地滑りや下宿アパートの倒壊で、大学生や住民計9人が亡くなった。

 約70棟の別荘地は昭和の時代、スケート場だったという。熊本地震では、全壊と半壊で「被災格差」も生じた。ただ、住人たちで話し合い、宅地開発会社の責任を追及するのではなく、一緒になって村と協議し、復興の動きを加速させた。

 本年度からは村の防災教育ガイドも務める。今春、大学の新入生を案内した。

 「あの時、倒れたタンスで部屋のドアが開かず、家具の配置を悔やんだ。まっ暗で出口が分からず、懐中電灯やヘルメットの備えもなかった。日本中、どこでも地震があり、実はちょっとした工夫で減災はできる」

 本震直後の自宅写真を掲げ、そう語ったという。

 夫妻の楽しみは旅行。この秋には、東北からJRで南下した。「旅先で妻と一緒に歩きながら思うんですよ。『当たり前』がこんなにも大切なものかって」

 2度の試練を越え、第二の人生を歩む鉄村さんは、しみじみと話した。(佐藤倫之)

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