筑後から世界へ挑む(2)素人、挑戦9年で二つ星 紅茶生産の森山さん

西日本新聞 筑後版 平峰 麻由

 どんな味が“正解”なのか分からなかった。どんな香りが“本物”なのかも。緑茶派で、ティーバッグで入れたものしか知らない自分が作った紅茶が、世界で認められたと知っても、ただ驚くだけだった。

 約1万3千点が品評される英国の国際食品コンテスト「グレート・テイスト・アワード2019」。八女市上陽町で紅茶やシイタケを細ぼそと生産する森山正さん(63)=久留米市南町=の「薬師紅茶」が、三つ星に続いて上位1割程度しか選ばれない「二つ星」を受賞した。

 「鮮やかな紅色、口に広がる香り、後口に残るしっかりとした渋みと爽快感とのバランスが絶妙」

 英語が得意な娘が、評価点を並べたホームページの文章を訳してくれても、やっぱりぴんとこなかった。

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 中学校や特別支援学校勤務時代は、部活動や学校行事に追われる日々。「人生このままでいいのか」と自問していた48歳の頃、思い切って八女の山間部の耕作放棄地を購入した。仕事の合間に棚田だった農地を少しずつ耕し、イモや野菜を植えたが、イノシシなどの食害に悩まされた。

 何を栽培すべきか。2010年、九州沖縄農業研究センター(久留米市御井町)に相談。職員で、以前に茶の品種開発に30年以上携わった経験を持つ山下正隆さん(71)に、紅茶を勧められたのが転機となった。

 教えの通り、国内のメジャーな茶葉「紅ふうき」の苗4千本を植え、栽培も加工も一から山下さんの手ほどきを受けた。良質な茶葉が採れるようになるまで5年。その葉で初めて作った紅茶は仕上げの乾燥が足りずにカビが生えた。

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 茶の葉を使う点は同じでも、緑茶と違うのは葉の発酵度。紅茶特有の香りや渋みは、摘んだ茶葉を寝かせて水分を抜き発酵を進める工程「萎凋(いちょう)」が命だ。だが紅茶を飲み慣れないため、どんな味を目指すべきなのか分からなかった。試飲を重ね、結局たどり着いたのは「自分は花のような香りがして、がつんと渋みのある紅茶が好き」だということ。その味を目指すことだけにこだわってきた。

 乾燥時間と水分量をノートにつぶさに記録し分析。気候や湿度変化への細かな対応は茶葉の感触で覚えた。使う茶葉は傷んだものが混じらないよう全て手摘みだ。模索を続ける中、品評会への出品を勧められた。国内に大規模な会はない。「客観的な評価を受けてみるのもいいかも」。軽い気持ちでの英国参戦だった。

 年間生産量は約10キロで規模は小さい。自らの茶畑の周囲では、担い手不足から畑を手放す農家も少なくない。「こんな田舎で作った紅茶も世界に通用するんだと自信になった。でももっとおいしくできる。お茶づくりの可能性を広め、茶畑復活の手がかりを作りたい」。森山さんの挑戦は数百年続く日本茶の産地・八女へのエールでもある。 (平峰麻由)

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