石木ダム事業 必要性の説明が不十分だ

西日本新聞 オピニオン面

 一度動きだしたら、状況が変わっても止められない。大型公共事業を巡って散々指摘されてきた問題ではないだろうか。私有地の強制収用まで準備しているのなら、慎重な上にも慎重な判断を求めたい。

 長崎県川棚町に県と佐世保市が計画する石木ダム建設(事業費約285億円)である。同市の利水と川棚川流域の治水を目的に1975年、国に事業採択されて44年になるが、本体に着工できていない。予定地の一部住民が反対し、立ち退きにも応じないことが最大の理由だ。

 反対住民らは「水の需要予測が実態とかけ離れている」「治水も河川改修で対応可能だ」として、ダムは必要ないと主張している。

 国の事業認定取り消しを求めた訴訟で、福岡高裁は先週末、一審長崎地裁に続き住民側の訴えを退けた。国や長崎県の判断に不合理はないとの理由だ。

 住民側は上告する方針で、工事差し止めを求める別の訴訟も係争中である。知事の判断で予定地を強制収用する代執行が可能な状態だが、着工はまだまだ見通せないと言える。

 反対がここまで強硬になった理由の一つに、県が82年、予定地の測量に県警機動隊を投入し住民を力ずくで排除した経緯がある。県はまず、信頼関係を損なった事実を重く受け止め、交渉の前提となる信頼回復に努めるべきだ。そうした意味で、県が交渉期間を確保するため工期を2025年度まで3年延長したことは評価できる。

 その上で再検討すべきは、反対住民が問う「水の需要予測」「治水の代替策」についてだ。豪雨災害が相次ぐようになり水害対策は重要で、渇水の不安を解消することも大切である。ただ、人口減少や経済情勢の変化など44年前とは諸条件が大きく異なることもまた明らかだ。

 国立社会保障・人口問題研究所によると佐世保市の人口推計は20年24万8千人、30年23万1千人で、10年の26万1千人から大きく減少する。水需要も比例すると考えるのが妥当だろう。

 石木ダムを造って日量約4万トンの水を新たに確保する必要性が実際にあるのか。佐世保市は水需要予測を含む利水の事業再評価を、予定を早めて実施する方針という。透明性を確保し、丁寧な評価を望みたい。

 治水面でも、県側は「100年に1度の規模の洪水に対応するためのダム」としてきたが、他の手段は本当にないのか。反対住民に限らず誰もが納得できる形で説明すべきだ。

 石木ダム建設は強制収用に反対する国会議員らの組織も発足し、全国的関心も集めている。一度立ち止まる勇気も必要だ。

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