妊娠11週、医師の言葉に「頭が真っ白になった」 出生前診断に悩む親

西日本新聞 くらし面 新西 ましほ

支援に取り組む団体も

 おなかの中にいる赤ちゃんに病気や障害が分かったら-。「出生前診断」への関心が高まる中、検査を受ける人や妊娠を続けるか悩む人たちの支援に取り組んでいる団体がある。千葉市のNPO法人「親子の未来を支える会」。検査前後にネットで相談できるサービス「ゆりかご」を運営し、支援情報をまとめた小冊子を先月から無料で配布している。

 都内に住む真紀さん(32)=仮名=は2年前、妊婦健診の際に医師から突然「胎児の首の後ろにあるむくみ(NT)が通常より厚く、染色体異常の可能性がある」と告げられた。妊娠11週。「まさか、と頭が真っ白になった」。2週間後に絨毛(じゅうもう)検査を受け、赤ちゃんはダウン症と診断された。

 検査前は「陽性なら諦めよう」と夫婦で決めていた。だが、いざ決断を迫られると「何とか産めないか」と心が揺れ、意見の変わらない夫と激しい口論になった。「産んで養子に出すことや離婚して一人で育てることも考えた。どうしたらいいのか、本当に分からなかった」

 そんなとき、支えになったのが「ゆりかご」だった。医師や障害のある子を育てる親、悩んだ末に中絶を選んだ親たちとつながり、情報や体験を聞けた。「みんなどちらの決断をしても応援するよと言ってくれて。批判されないことで安心して相談できた」

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 日本産科婦人科学会によると、3~5%の赤ちゃんは何らかの異常を持って生まれてくるという。妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新出生前診断の広がりが議論を呼んでいるが、出生前診断を受けたつもりがなくても、真紀さんのように超音波検査で病気や障害の可能性を指摘されるケースもある。

 NPOの代表理事を務める産婦人科医の林伸彦さんは、英国で胎児医療を学んできた。現地では、出生前診断を希望すれば公費で受けることができ、赤ちゃんに病気が見つかった場合、出産前から治療を受けることも可能。検査前後の親たちに向けた相談窓口は30年以上前からあるという。

 林さんは「日本でも、中立の立場で十分な情報を提供しサポートする体制が必要」と痛感。助産師や患者家族らと会を設立し、2016年に「ゆりかご」を始めた。20年中には、専門の相談員が常駐する相談窓口「胎児ホットライン」の開設を目指している。

 小冊子「おなかの赤ちゃんと家族のために」は、赤ちゃんの障害や病気が見つかり、不安や葛藤を抱える親たちの助けになればと作成した。妊娠を続けることを考えている人向けの「月編」、続けないことを考えている人向けの「星編」を1冊にまとめている。扱いに上下はなく、両方を読んでほしいとの思いを込めた。

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 真紀さんは結局、妊娠16週で中絶した。「亡くなった赤ちゃんを抱っこしたら本当にかわいくて」。自分を責め、罪悪感に苦しむ日々が続いた。「あの子のところに行こうと何度も考えた」。そんなときに救われたのが、ゆりかごで出会った里佳さん(38)=仮名=に掛けられた言葉だ。

 「選んだ道は違うけど、私たち頑張ったよね」

 里佳さんも妊娠中に赤ちゃんがダウン症と診断された一人だ。NPOを通じてダウン症の子を育てる親と会い、発育や療育の問題、経済的負担、仕事を続けられるかなど具体的な話を聞き、出産に臨んだ。娘は今3歳。里佳さんは「大変なこともあるけど、よく笑う子で、見ているだけで幸せな気持ちになる」と話す。

 「周りの環境や家族の状況によって決断はそれぞれでも、同じように悩み、苦しんで出した答え。正解はないし、どちらも尊重されるべきだと思う」と里佳さん。同じ悩みを抱える人たちを支える側に回った今は、できるだけ中立でいることを意識しながら、自身の経験を伝えている。

 真紀さんもゆりかごでの相談に答える一方、経験者が語れる場を作ろうと定期的に交流会を開いている。妊娠12週以降の中絶では、陣痛を起こして赤ちゃんを産む。心身の負担が大きいが、世間の目は厳しく、誰にもつらさを吐き出せないという。真紀さんは「苦しんでいる人に一人じゃないと知ってほしい」と力を込める。

 林さんは「検査を受けて悩む親たちはますます増えると予想される。生まれる前の命に向き合うお手伝いが、産科医療の中で欠かせないインフラとなるように働き掛けていきたい」と話している。 (新西ましほ)

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