タイマッサージ、無形遺産に? 性的サービス横行、脱却できるか

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 日本人にも人気が高い「タイ古式マッサージ」について、タイ政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)無形文化遺産への登録を目指している。9~14日にはユネスコの委員会で審査が行われる。登録されればタイでは2件目だ。政府は文化遺産登録によりブランド力向上を期待するが、一方でタイマッサージには違法な性的サービスが横行する「最も典型的なビジネス」(専門家)との印象もつきまとう。負のイメージ克服へ向け課題は大きい。

 約200メートル四方にタイ古式マッサージ店約20店が集まるバンコク・アソーク地区。英語で「保健省認証」と書かれたステッカーが店頭に貼られているのを記者が確認していると、女性従業員に腕をつかまれた。「スペシャル、あるよ」。性的サービスのことだ。「違法でしょ?」と聞くと「マイペンライ(大丈夫)」。

 ステッカーは店の安全性やサービスの質などを保健省が認証した事実上の営業許可証で、店頭での掲示が義務づけられている。マッサージ師も国の認証が必要で、もちろん性的サービスは厳禁だ。同省によると、認証店は約7800店。だが無認証のまま「マッサージ」を掲げて公然と営業する違法店も同程度かそれ以上あり、性的サービスを提供しているとされる。

 さらに認証店でも隠れて性的サービスを行っている店が少なくない。記者は日本人観光客が多い別の地区でも取材したが、認証ステッカーを掲示する店頭で同様に「スペシャルあるよ」などと声を掛けられた。

 売春など違法ビジネスの調査を続けるランシット大のラタポン助教授(53)は「認証店の約8割が性的サービスを提供している」と推測。「当局の管理が不十分なため『灰色のビジネス』になっている」と批判する。

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 アソーク地区の別の店では認証ステッカーの近くに他では見掛けない「NO SEX」の赤いステッカーが貼られていた。女性オーナーのトムさん(36)に聞くと「自作」と言い、店内のあちこちに貼ってある。

 掲示は2年前。店の経営を引き継いだ直後に始めた。「店のブランドと、従業員や利用客の安全を守るため」だ。それでもいまだに日本人ら外国人客から性的サービスを求められる。トムさんは「認証店で違法行為がまん延しているせいだ」と苦笑した。「せめて違法サービスを行う店かどうか客が見分けられる仕組みを政府に考えてほしい」

 タイ国内の約10カ所で古式マッサージを教える「ワットポー・タイ・トラディショナル・メディカルスクール」のプリーダ校長(77)も「政府はマッサージ店の認証基準を厳格化し、違法な店の取り締まりを強化すべきだ」と訴える。

 タイではマッサージ店に限らず、売買春は違法。当局による摘発が時折報じられるが、違法サービスを行う店の大半が事実上、黙認されている。今回、警察や関係省庁に現状を取材したが、全て回答拒否。政府がユネスコに提出した申請書類にも性的サービスのまん延や対策への言及はない。

 犯罪や汚職、人身売買を抑止するため売春を合法化して行政による管理を強化することを提唱するラタポン助教授は「文化遺産に登録されればイメージは向上するだろう。だが、政府はまず売春の実態を認めるべきだ。事実を隠したままでは、世界から二重基準とみなされる」と指摘する。 (バンコク川合秀紀)

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【ワードBOX】タイ古式マッサージ

 タイ文化省などによると古くから農村部を中心に生まれ、発展した。正確な成立時期や由来は不明、インドのヨガの影響を受けているとされる。約200年前には国王の命を受けた寺院がマッサージ方法を図などで示した記録を残している。全身をくまなく押したり伸ばしたりするのが特徴で、医療現場でも使われる。政府は「ヌア(タイ語でマッサージの意味)・タイ」の名称でユネスコに登録申請している。

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