北九州市若松区の高塔山にこんな詩碑がある…

西日本新聞 オピニオン面

 北九州市若松区の高塔山にこんな詩碑がある。<泥によごれし背嚢(はいのう)に/さす一輪の菊の香や>。作者は若松出身の芥川賞作家、火野葦平である

▼日中戦争に出征した葦平。弾薬が詰まった背嚢を背負い、大陸を泥にまみれ行軍した。その体験を記した兵隊3部作のヒットで国民的作家となるが、戦後は「戦犯」の烙印(らくいん)に苦悩した

▼3部作の一つ「土と兵隊」にこんなシーンが。中国軍とにらみ合う闇夜の陣地に赤ん坊の泣き声が響く。戦闘の巻き添えになった母子だった。葦平は銃弾が飛び交う下をはって母子の元へ。虫の息の母親に布団を掛け、赤ん坊は凍えぬよう布団でぐるぐる巻きにした

▼戦場での真実の物語は米国のノーベル文学賞受賞者に感銘を与えた。中国を舞台に大河小説「大地」を著したパール・バックである。同じ米国出身で2月に亡くなったドナルド・キーン氏も「感動的で、人間味溢(あふ)れる事件に打たれた」と記した

▼そんな人間味あふれる現場主義者、葦平の血脈を持つ人が帰らぬ人となった。葦平のおいの中村哲さん。危険なアフガニスタンでかんがい事業に突き進む姿に、兵隊と苦楽を共に死地インパールまで赴いた葦平の姿を重ねていたが…

▼民の生活が改善すると困る勢力でも現地にいるのか。疑問と憤怒が渦巻く頭に葦平の詩が浮かぶ。<兵隊なれば、兵隊はかなしきかなや>。悲しくて悔しくてやりきれない。必ず真相解明を。

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