野菜の「物語」伝えたい 野菜ソムリエ上級プロの山本喜世憲さん

西日本新聞 ふくおか都市圏版 豊福 幸子

 次代につなぐ農業探る

九州の農家で唯一、野菜ソムリエ上級プロの資格を持ち、食育活動をする人がいる。福岡市早良区の山本喜世憲さん(45)。代々続く農家の長男に生まれ、若いころは農業が嫌いで「自分探しの逃避行」を重ねた。回り道の末、たどり着いたのは、野菜の「物語」を伝える農家だった。

 同区小田部の住宅街の一角に、ビニールハウスが広がる。「木で赤くしてから収穫したトマトは味が違うんですよ」。取れたての真っ赤なトマトをいとおしそうに見つめる。6年間、15品種以上を育て比べてたどり着いた自慢の逸品だ。

 主な出荷先は、JA福岡市の直売所「博多じょうもんさん市場」。「優しい甘さが特徴」「できる限り水を与えず、おいしさを凝縮させています」。こだわりを書き込んだ、商品をPRする手づくりポップは客の目を引く。「手間を掛け、良いものを作れば、おいしいと言ってもらえる」。消費者からのダイレクトの反応が何よりうれしい。

 農家の後継ぎというプレッシャーを感じながら幼少期を過ごした。将来を決められるのが嫌で、実家から逃げるように京都の大学に進学。3年次を終えると休学し、1年間、韓国に留学した。卒業後は福岡市内の建設会社に就職し、営業マンとして働いた。

 だが、泥だらけ、汗まみれで農業に打ち込む父親が体力的にきつくなっている姿を見て、就農を決意する。30歳だった。

 市場に出荷する父に対し、空いた畑で野菜を作って直売所に出してみた。安さ、新鮮さ、安心安全、こだわり…さまざまなものを求める消費者の声に触れることができた。県農業大学校でトマト栽培を学び、嫌いだったトマトのおいしさを知った。もっと野菜のことを知りたくて、野菜ソムリエの勉強をした。

 「直売所はやり方次第。ニンジン3本が100円でも、150円でも売れる」。品種にこだわり、栽培記録を付けて改善を重ね、ポップで魅力を訴える。同じ栽培面積でも数年後、売り上げは3倍に。気付いたら、農業にはまっていた。

 就農から15年。約6600平方メートルで夏、冬それぞれ10種類以上の野菜を作る。全国でも145人しかいない野菜ソムリエ上級プロの資格を取得。JA福岡市の「食農ティーチャー」として小学校で食育講座を受け持ち、食べ物の大切さや旬の野菜を食べる意味を教える。店で売られているコメや野菜が、どのような過程で生産されたのかを知らない子どもも多い。「野菜はただの『商品』ではなく、多くの『物語』が詰まっている。それを伝えたい」

 学生時代、学校の先生になりたい気持ちもあり、教員免許も持っている。文学部で学んだ表現力などはポップ作りに役立ち、建設会社時代に経験した飛び込み営業のおかげで、販売で気後れすることもない。「回り道が全て、今につながっている」。これからも模索しながら、次世代につなぐ農業を築いていく。 (豊福幸子)

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