「寅さん」支えた脇役女優

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 今度の正月は久しぶりに「寅さんのいる正月」だ。

 「男はつらいよ」の第1作公開から50年を記念し、第50作となる新作映画「男はつらいよ お帰り寅さん」(山田洋次監督)が今月27日から公開される。シリーズ登場人物たちの現在の人生と、それぞれが抱く寅さんの思い出が交錯する映画になっているらしい。

 ところで「男はつらいよ」の出演俳優と言えば、寅さん役の渥美清さんはもちろん、妹役の倍賞千恵子さん、マドンナ役では浅丘ルリ子さん、脇役陣ではタコ社長の太宰久雄さんなどさまざまな名前が浮かぶ。

 そこへさらに一人「谷よしの」という女優の名前を付け加えることができたら、あなたはかなりの「寅さん通」である。

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 谷よしのさんは戦前に松竹に入社。脇役専門の女優(大部屋女優)として木下恵介監督ら数々の名匠の作品に出演した。2006年に89歳で亡くなっている。

 「男はつらいよ」シリーズには、全48作(特別編の第49作を除く)のうち三十数作に出演している。出演者名に載らないのに出ていることもあり、出演本数がはっきりしないのだ。

 面白いのは、他の常連出演者と違って役柄が一定していないこと。ご近所さん、行商人、通行人、食堂のおばちゃん-中でも多いのは寅さんが泊まる安宿の仲居さん役だ。せりふはあったりなかったり。ほぼレギュラーなのに、一般にはあまり知られていない。

 どんな女優だったのか。谷さんを知る人に聞いた。

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 松竹で山田監督の下「男はつらいよ」シリーズの録音を務めた鈴木功さん(82)の述懐-。

 「おとなしい物静かな人だった。演技はほんとに自然でね。まるっきり余計なことをしない。普通はそれがなかなかできないんですよ。俳優さんはどうしてもお芝居しちゃうんだよね。山田監督は自然なのが好きだから、それで谷さんを使ってたんじゃないかな」

 「寅さんが行く安宿に仲居さんの谷さんがいる。なんかなごむんだねー。谷さんに、地方の温かさを感じていたのかなあ」

 もう一人、松竹で谷さんの後輩にあたる女優の光(ひかり)映子さん(78)の思い出-。

 「無駄な芝居をなさらない方。さっと出てきて二言三言。何げなく空気のように出てらした。普段も女優女優してらっしゃらなかった。本当に普通でした。そこがいいんですよね」

 映画はスターだけでは成立しない。この国民的娯楽映画のバックにある景色、空気、町の表情-それをつくり出すため、谷さんは欠かせない存在だった。谷さんが亡くなった時、山田監督は「目だたないところでしっかりと映画を支え続けたあなたの生涯に、心から称賛と感謝を捧(ささ)げます」との弔電を寄せたという。

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 私は「男はつらいよ」シリーズ全作品を見ている。ビデオで第1作から順に見ていくうち谷さんの存在に気付き、以来作品の中にその姿を見つけるのがひそかな楽しみになった。

 谷さんを見たい読者は-。シリーズ最後の出演となった47作目「拝啓車寅次郎様」が分かりやすい。最初から60分くらい、寅さんに「ばあちゃん世話になったね」と心付けを渡される仲居さんが谷さんである。

 (特別論説委員)

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