【中村哲がつくる平和 戦乱のアフガンから】④自立支援 住民育てて技術広げる

西日本新聞 社会面 中原 興平

 目を疑う光景だった。V字形に折れた橋を、ゆっくりと車が渡っていく。2014年12月1日、アフガニスタン東部ナンガルハル州。現地の非政府組織「PMS」(平和医療団)が造った取水口を訪ねる道中のことだ。

 最徐行で私たちの車も渡った。「橋は外国の支援で造られた」とPMSスタッフ。洪水で折れたが、国や自治体は資金不足で補修できないという。それでも迂回(うかい)路が遠いため、壊れたまま通らざるを得ないのだ。

 PMSを率いる中村哲医師(68)は「簡単には修理できない現地の事情への配慮がないですね」。別の国の支援で造られた道路が数年で破損した例もあるという。ある国連機関の職員は「ただ造るだけで、後のことは考えていない支援は珍しくない」と打ち明ける。

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 アフガンで猛威を振るった大干ばつを受け、PMSは2003年、用水路建設を始めた。「用水路は命の基盤。住民が自ら維持管理して長く使えるものが望ましい」。土木工事の素人だった中村医師は専門書で学ぶ一方、帰郷すると九州の川を見て歩いた。試行錯誤の末、たどり着いたのが日本の伝統工法だった。

 取水口のモデルとなったのは江戸時代に造られ、福岡県朝倉市に現存する山田堰(ぜき)。水圧を和らげるため、川の流れに対し岸から斜めに延びているのが特徴で、水位が変動しても安定して取水できる工夫がある。

 現地を流れるクナール川の水位は、夏は雪解け水で増し、冬は下がる。差が3メートルになる場所もある。故郷に伝わる厳しい自然と折り合う技術こそ、探し求めていたものだった。山田堰土地改良区の徳永哲也事務局長(67)は「山田堰には、重機もない時代の先人の苦労と知恵がつまっている。異国で役だっていることがうれしい」と喜ぶ。

 古来の技法は、他にもある。鉄線で編んだ籠に平たい石を詰めて護岸に並べる「蛇籠工(じゃかごこう)」は、石材が手に入れやすく補修が容易だ。岩山ばかりのアフガンで、住民は石の扱いに慣れているからだ。さらに柳を植えて根を張り巡らせ、護岸を強固にする「柳枝工(りゅうしこう)」も取り入れた。

 PMSが建設・補修した用水路は計7カ所。100人超のスタッフと多くの住民が経験を積んだ。目指すのは、国や海外から用水路工事を請け負う技術者集団だ。福岡市のペシャワール会の資金援助で活動する現地スタッフが自立し、干ばつに苦しむ地域に技術を広げていくためだ。高橋博史駐アフガン大使は「中村さんがいなくても現場は動くと思う。人材育成も彼の功績だ」と語る。

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 「現地の視点」に主眼を置く国際機関もある。国連人間居住計画(ハビタット)はアフガン都市部でインフラ整備に取り組む。資金を提供するが、整備内容を決めるのは地元住民でつくる協議会。地域づくりに対する当事者意識を高めてもらう狙いがある。

 「国際的な支援はいつか終わる時が来る。主役はあくまで住民なんです」。アフガン事務所職員の川嵜渉さん(36)=福岡県出身=は強調した。(中原興平)

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