【アフガンの地で 中村哲医師からの報告】広がる 生命の営み (2ページ目)

死の谷 恵みの源に

 かくてマルワリード=カシコート連続堰(ぜき)は、両岸6千ヘクタールの地域の生存とPMSの興亡をかけ、「緑の大地計画」の頂点と呼べるものとなった。類例のない難工事に過去最大の物量が投入された。5月9日、カシコート側への試験通水が成功したときのうれしさは例えようがない。対岸のわがマルワリード用水路も、10年目にして安定した灌漑(かんがい)を保障できたのだ。
 PMSの農場開拓は、こうして不動の基礎を得た。ガンベリ平野は平和である。かつて一夜にして開拓地を砂で埋めた砂嵐も、一瞬にして家々をのみ込んだ洪水も、広大な樹林帯に守られている。幾多の旅人を葬り去った強烈な陽光もまた、死の谷を恵みの谷に転じ、豊かな収穫を約束する。2万本の果樹の園。膨大な穀物や野菜の畑。砂防林から得る薪や建材、多くの家畜を養う広大な草地。今や自活は可能である。悪化一途の政情を尻目に、静かに広がる緑の大地は、もの言わずとも無限の恵みを語る。
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 平和とは言葉ではない。ダビデの詩は、数千年の時を超えて朽ちない真実を伝える。
 主はわが牧者なり、われ乏しきことあらじ。主はわれをみどりの野にふさせ、憩いの汀(みぎわ)に伴いたもう。たといわれ死の陰の谷をあゆむとも、禍を恐れじ。汝(なんじ)われと共にいませばなり。かならず恵みと哀れみとわれにそいきたらん。(詩編第23篇より抜粋)
 宗教的な話ではない。恵みは備えられてある。それは目先のカネ回りではない。GDPも株価も自然の恵みを語らない。「対テロ戦争」の暴力に至っては論外である。戦がここで何をもたらしたのか、われわれは知っている。かつて一世を風靡(ふうび)した「アフガン復興」は、混乱と退廃、国土の荒廃と敵対関係という惨憺(さんたん)たる結末を残したまま忘れられようとしている。誤りと向きあって教訓にする勇気を、われわれは欠いていないだろうか。
 国の威信の神髄は、武力やカネではない。利に惑わされて和を失い、先祖が営々と築いた国土を荒廃させる。豊かな心性を失い、付和雷同して流されるさまは危機的である。戦乱のアフガンから日本の行方を祈りたい。
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 「アフガンの地で」はアフガニスタンやパキスタンで復興支援活動を続ける非政府組織「ペシャワール会」(事務局・福岡市)の現地代表でPMS総院長の中村哲医師(66)によるリポートです。6月1日午後1時から、福岡市早良区の西南学院大学チャペルで、中村医師の現地報告会が開かれます。入場無料。

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