聞き書き「一歩も退かんど」(38) 人質司法もうやめて 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 2004年7月2日。志布志事件で妻のいとこの中山信一が395日もの勾留の末、保釈されます。再会した瞬間、驚きました。肌がろう人形のように真っ白なのです。前年4月、共に奔走した県議選で黒々と日焼けしていた精悍(せいかん)な表情とは別人です。1年以上も屋内に閉じ込められたら、皆そうなるのですね。

 かなりやせたようで、丸っこかった体も引き締まった感じ。「よかった、よかった」と握手しました。何か気の利いたことをと思いましたが、「大変やったなあ」の一言しか出ません。それでも、互いに伝わるものがありました。

 ただ、再会の感激に浸っている時間はありません。中山は早速、私も踏み字事件の民事訴訟で体験した鹿児島県弁護士会館での記者会見に臨むのです。この日告示された県議補選曽於郡区(改選数1)に、中山は立候補していました。

 会見で中山は「買収会合なんてなかった。身に覚えのない、なかった事件だ」とでっち上げを強調しました。私も含め志布志事件の被害者全員が発している訴えと、全く同じです。「選挙が始まったので、明日からでも運動したい」と、再選に意欲を見せました。

 翌日から私も選挙事務所の裏方で運動に奔走しました。何せ候補者が選挙違反の被告の身とあって、「お酒」「お食事」「お金」は徹底的に排除し、クリーン選挙を貫きました。

 結果は落選でした。それでも中山の得票数は2万3018。準備万端で再選されたI候補に、5804票差まで迫りました。かなりの割合の有権者が、この時点で既に、志布志事件を「冤罪(えんざい)」と思っていたことの証しではないでしょうか。後に無罪判決を得た中山は、次の07年県議選で復活を果たしますが、その話はいずれまた。

 しつこいようですが、再びカルロス・ゴーン被告を巡る事件の話を。国際問題になった日本の「人質司法」ですが、志布志事件と根っこは全く一緒です。長い間、閉じ込められて、「やっただろう」と朝昼晩責め続けられたら、大抵の人は根負けしてうその自白をします。そうした捜査の違法性は、志布志事件で厳しく糾弾されていたはずなのに…。

 日本の捜査当局はなぜこれほど身柄拘束にこだわるのでしょうか。正々堂々と捜査して法廷で真実を争えばいいのでは。日本は本当に遅れています。人質司法はもうやめましょうよ。(聞き手 鶴丸哲雄)

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