司法過疎地どう支える 「受け皿」整備なお途上

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

成年後見はいま 開始20年(5)

 司法書士の浅野芽黄(もえぎ)さん(39)は昨年夏、福岡県吉富町に事務所を開いた。町は周防灘を望む大分県境にあり、人口約6760人、高齢化率は31%と高い。この町で、成年後見制度の業務をほぼ1人で担う。

 利用者の事情は困難なものが多い。70代女性は消費者金融や光熱費の支払いが滞り、金銭管理もできないため、封筒に1、2日分の生活費を入れ、自宅に週4回通って手渡した。借金額が分からないほど追い込まれた80代男性もいた。

 2人の後見業務は無償でしている。報酬を請求すると本人の財産から支払われ、さらに困窮してしまう。別に受け持つ2件もいずれ無償になるという。「みんなが少ない蓄えを切り崩して生活しており、仕方ないです」

 事務所を共同運営する司法書士の夫、敏之さん(35)が支えてくれるが、別分野の業務を中心にしているため限界がある。司法書士でつくる「成年後見センター・リーガルサポート福岡支部」の会員は町内で自分と夫だけ。隣の市町も合計で1人しかいない。

 「利用者が増えたら、自分だけで果たして対応できるか」。不安は大きい。

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 専門家の少ない司法過疎地で、成年後見のニーズにどう応えるか。2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者になり、需要が増すのは間違いなく、専門家だけでは担えなくなると指摘されている。

 期待されるのが、自治体などの講座を受けた「市民後見人」だ。しかし、育成も活動も十分とはいえない。厚生労働省によると、全国の市民後見人は1万4140人(17年度末)だが、最高裁判所の集計では、17年に後見人らに選任されたのは289人にとどまる。

 市民後見人が広がらない背景には、専門的な知識が不足し、リスクが高いという家裁側の思いもあるとみられる。そのため市民後見人は、後見業務を法人として担う社会福祉協議会やNPO法人に雇用され、仕事をする例が多い。

 そうした中、この法人後見と市民後見人が連携した例が北九州市にある。

 同市の市民後見人、大坪義弘さん(75)は9月、福岡家裁小倉支部から70代男性の後見人に選任された。福岡県で市民後見人が選任されるのは初めてだった。

 同市社協が後見人になっていたが、本人の状態が落ち着き、移行を家裁に申し立てた。後見監督人には市社協がついた。

 「1人で全ての業務をするのは難しい。社協が最初の難しい手続きをし、その後も支えてくれたからできた」と大坪さんは語る。

 ただ、法人後見の団体がない地では、この「リレー方式」も難しい。市民後見人の報酬は専門家より低くなりがちで、そもそも後見人に選任されるかも分からない。「講座を受けても報われない」との意識が生まれかねず、養成に取り組む市区町村も24%と低い。

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 増える後見人のニーズと司法過疎にどう対応するか、国も対策を進めている。

 後見人だけでなく、介護・福祉サービス事業者や民生委員などが連携して本人を見守る「チーム体制」▽後見人にふさわしい人を推薦するなどして家裁や専門家の調整役になり、利用相談にも応じる「中核機関」の設置。利用促進計画に沿い、21年度までに市町村で整えることを目指す。

 11月23日、福岡市であったリーガルサポート福岡支部の設立20周年シンポジウムでは、厚労省の担当者が構想に理解を求めた。

 「弁護士がいない、司法書士は1人だけ。社協は法人後見をしていない。なんとかしないといけないのは、こういうところです」

 本人と専門家、家裁に限られがちだった運用を地域で担う-。賛同できても、現場の市町村は厳しい。

 「中核機関」の運営に関する国の支援は、人口10万人規模の自治体で地方交付税に約300万円が措置されるだけ。厚労省は市民後見人や法人後見の団体を育てる補助事業に取り組むが、法務省は後見人の不正防止対策を中心にする。国の足並みもそろっていない。

 「人員も予算も全て厳しい。近隣自治体と広域で取り組むことも考えないと」。吉富町の担当者は悩む。

 制度は司法と行政の境目にあり、各分野の協力が欠かせない。どこに住んでも、誰でも適正に利用できる環境づくりも急務だ。開始から来年で20年。節目はなお、修正の道半ばにある。(編集委員・河野賢治)=おわり

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 【ワードBOX】市民後見人
 弁護士などの専門家以外で、自治体などの養成講座を修了した人。特に資格は必要なく、市民目線できめ細かい支援ができるとされる。家庭裁判所に選任されて後見人になるほか、法人後見を担う団体に所属し、スタッフとして後見業務に当たる形がある。自治体が主導して講座の修了者を家裁に推薦する場合、市民後見人の報酬を無償としている例もある。

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