古今東西の名著をローカルな視座から読み解いて、これからの社会を構想する

西日本新聞

 洋の東西を問わず読み継がれてきた「古典」と呼ばれる名著への興味は尽きないものの、それを読みこなすにはさまざまな予備知識とかなりの忍耐力が必要だ。それだけに読み始めたのはよいが、途中で投げ出してしまうということも少なくないだろう。そんな読者にとって名著を要約したガイドブックは重宝な存在だ。本書には哲学・思想、政治・経済・社会、科学論・技術論・労働論、文学・紀行・評伝、宗教・信仰の5つのジャンルから50冊の「古典」が取り上げられている。手軽に知識や教養を身につけたい読者にはうってつけな書物である。

 しかし、本書の構えは類書とは異なっていて、古典的名著のあらすじや要約を単純にまとめたものではない。著者である哲学者・内山節が明確な視座から古典を読み解いていくことが大きな特徴だ。それは「ローカルな視点」である。中央集権的で巨大な政治・経済システムの生み出す矛盾が、経済成長というベールで隠されることなく露骨に現れるようになった現代の先進国社会。日本を含めて、すでに「強い国家と集積された経済の実現が多くの人々に経済的な利益を与えるという構図」が崩れ去った先進国では、地域を軸にした社会の立て直しが求められているというのが内山の問題意識なのである。

 この「ローカルな視点」というのは、巨大な政治・経済システムとは異なる、より小さな社会で人と人がどのように人間的な結びつきを実現できるかという課題を探る視点でもある。この課題にどのように応えているか、いくつかの例を上げてみよう。『自由からの逃走』(フロム)や『コミュニティ』(マッキーヴァー)、『近代日本人の発想の諸形式』(伊藤整)などでは、巨大は政治・経済システムが奪い去った共同体の問題として、さらに『職業としての政治』(ヴェーバー)や『歎異抄』(唯円)では、本来、人間が社会でどのように結び合うかという問題として、地域を軸とするこれからの社会を構想するヒントを得ようとしている。

 混迷の現代社会をどのように乗りこえていくか、この課題にチャレンジするためには古典に学ぶ温故知新という道筋があるに違いない。本書は、私たちが生きているこの社会の問題を考えるときに非常に多くの示唆を与えてくれる。50冊の古典的名著を下敷きにした、新たな名著の誕生である。

 

出版社:農文協
書名:内山節と読む 世界と日本の古典50冊
著者名:内山節
定価(税込):2,750円
税別価格:2,500円
リンク先:http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54019149/

西日本新聞 読書案内編集部

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