新宿鮫が帰ってきた! 深い喪失感を湛えたハードボイルド・ミステリー

西日本新聞

 8年ぶりとなる、人気のハードボイルド・ミステリー「新宿鮫」シリーズの第11作。一度喰らいついたら離れない、ヤクザも恐れる「新宿鮫」こと、鮫島刑事が帰ってきた。キャリア出身のスーパーエリート。にもかかわらず、出世よりも自由を、組織よりも個人でいることを愛し、警視庁ではなく新宿署での刑事人生を選んだ男。その熱く、クールな魅力は健在だ。

 もちろん変化がないわけではない。前作において、自分の責任で上司・桃井を殉職させてしまった鮫島は、不本意ながらも課長代理の役職に就いている。そして、新たな上司として警視庁から送り込まれた阿坂景子と、彼女から教育をまかされた新人・矢崎。とりわけ、組織に忠誠を誓いルールを重んじる、阿坂の存在感が強烈だ。二人に挟まれて、これまで孤高を貫いてきた鮫島も中間管理職としての顔を見せざるをえない。

 本筋のストーリーは骨太で壮大である。外国人向けのヤミ民泊に使われている、新宿の古いマンションの一室。そこで不可解な殺人事件が起こる。被害者の身許も動機も不明。手がかりといえば、死体から摘出した弾丸と、減音装置を施した特殊な銃が使われたことだけ。

 矢崎を引き連れて捜査に乗り出した鮫島は、自分たち以外にも事件の真相を追っている人間がいることを知る。公安、暴力団、政府の下部組織、思い通りに男を操る魔性の女・・・。その他、さまざまな人物たちのさまざまな思惑が交錯し絡み合う。捜査は困難を極め、展開は二転三転する。やがて読者は事件の背景に、歴史に翻弄された人びとの深い喪失感が存在することを知る。

 ある者は家族を、ある者は祖国を失った。失ったといえば、上司を死なせ、それを理由に恋人と別れた鮫島も同様だ。作中、死の記憶と自己嫌悪による不眠に悩まされながら、彼は過去と決別して生きるべきか自問自答を繰り返す。

「思い出をひきずって生きるよりはマシだ。そうじゃない。思い出から逃げだす弱さが嫌なのだ」

 700ページを超える大長編である本作。一気読み必至のエンターテイメント性をもちながら、一方で作者は「人はいかにして喪失感を背負って生きるべきか?」と読者に問いかけているのかもしれない。

出版社:光文社
書名:暗約領域 新宿鮫XI
著者名:大沢在昌
定価(税込):1,980円
税別価格:1,800円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334913175

西日本新聞 読書案内編集部

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