聞き書き「一歩も退かんど」(39) 可視化しかない 実感 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 東京で開くシンポジウムで「踏み字」被害を再現してほしい-。こんな話が私に舞い込んだのは、2004年秋のこと。依頼主は何と日弁連。驚きました。

 この頃、日弁連は取り調べの状況を録音、録画する「可視化」を国に求めていました。志布志事件の違法捜査の実態を被害者に訴えてもらい、可視化を推進したいという狙い。「本当に私でいいんですか?」と、恐る恐るOKしました。

 ただ、踏み字を再現するには相方が必要です。志布志事件の被害者を支援する「住民の人権を考える会」から、中学の後輩で新聞販売店主の山畑正文君が重責を買って出てくれました。

 上京前の数日は山畑君が毎夕、私の家に来て予行演習です。山畑君が私役で、私はH警部補役。彼の両足をつかんで「血も涙もないやつだ」と実演すると、まるで幼稚園の学芸会のよう。妻の順子が笑うこと、笑うこと。おまけに山畑君からは「幸夫さん。そんな言い方じゃ伝わらんど」と何度も駄目出しされ、私は思わず「ん、どっちが先輩け?」と熱くなりました。

 そしてシンポは11月2日、霞が関の弁護士会館で開催。タイトルは「可視化でなくそう! 違法な取り調べ」。私たちが真剣に踏み字の一部始終を再現すると、約500人の聴衆から「うわー、こんなことするのか」とどよめきが。私は「心の傷は一生消えません。警察は二度とこんな事件を起こさないでほしい」と訴えました。

 この後のパネルディスカッションを、私は食い入るように聞きました。作家や大学教授の4人の先生が、なぜ可視化が必要か、どう導入するかを、いろんな視点から説いたのです。結論は、冤罪(えんざい)の最大の温床は密室であり、それをなくすには取り調べの録音、録画が不可欠である-。それこそが「可視化」なのです。

 私は「これだーっ」と思いました。志布志に戻るとすぐ、ホテルの敷地に看板を立てました。その文言は「密室の中には可視化が必要」。冤罪をなくす道はこれしかないのです。

 年が明け、全国ネットの報道番組から取材が。鳥越俊太郎さんがキャスターを務める「ザ・スクープ」です。ようやく全国に踏み字の問題が知れ渡る、と取材に全面協力しました。番組を多くの人に見てほしくて、放映日を記したステッカーを車に貼り、市内を走り回りました。これが志布志事件の名物となる「川畑の街宣車」のきっかけです。(聞き手 鶴丸哲雄)

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