聞き書き「一歩も退かんど」(40) 「名物街宣車」が誕生 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 この聞き書きを読む時に写真から眺める習慣がある読者の方に、まずお断りをしておきますね。

 私は決してその筋の者ではありません。誤解のないようお願いします。

 2005年春。踏み字事件の民事訴訟を闘う中で、捜査現場の「可視化」の必要性に目覚めた私は、たった1人でできるキャンペーンを思いつきました。街宣車で各地を回り、取調室の録音・録画と冤罪(えんざい)の撲滅を訴えるのです。元トラック運転手。左目は見えませんが運転の腕は確かです。

 中古のワゴン車に拡声器を搭載して、「可視化でなくそう 違法な取り調べを!」などと書かれたシールを貼ってみると、なかなかインパクトがある車体が出来上がりました。

 ですが、一番大切なのはどんな音声を流すか。私でもいいのですが、できれば清らかな女性の声が…。するといつものように、妻の順子が思いつきました。

 「Aで流れる館内放送の女性の声は?」

 Aとは、鹿児島県志布志市で人気のショッピングモール。この女性の声は親しみやすく心地よい響きがあるのです。妻は早速、Aに出向き女性と直談判。最高のウグイス嬢と契約できました。知り合いの音楽好きのお医者さんに依頼し、テーマ曲も完成しました。

 出来上がったテープは、まず志布志弁で「でーなこっじゃー(大変なことだ)」と歌う軽快なテーマ曲が流れます。続いて女性の声で「取り調べの録画があれば志布志のような16人もの不当な逮捕はなかったと思います。これは志布志だけの問題ではありません。取り調べの可視化を実現しましょう」と訴えるのです。

 これが志布志事件の名物となる「川畑の街宣車」の誕生です。初日は鹿児島市へ。まず因縁がある鹿児島南署に着くと、副署長と留置場の担当官が出てきました。「ここに勾留されていた川畑です。可視化を訴え鹿児島市内を街宣します」と宣言すると、「気を付けて回ってください」。ちょっとずっこけました。

 南九州随一の繁華街・天文館を回ると、道行く人の多くが何事かと注目し、反応は上々。県警本部と志布志署のK署長の自宅マンション前で、拡声器のボリュームを目いっぱい上げて、マイクを握りました。

 「ごあいさつに来ました。私は踏み字をされた川畑本人です。皆さん、気を付けてください。明日はあなたが逮捕されるかもしれませんよ」

 (聞き手 鶴丸哲雄)

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