天草コレジオ、謎のまま? 跡地の所在、かつて大論争

西日本新聞 熊本版

 1591~97年、天草にあったとされるキリシタンの最高学府「天草コレジオ(学林)」。日本初の活版印刷本「天草本」などで知られるが、具体的な場所は謎のままだ。かつては跡地の所在地を巡って旧本渡市と旧河浦町が激しい論争を繰り広げたが、2006年に2市8町の合併で同じ天草市となってからは下火に。地元の郷土史家は「謎のままで終わってしまう」と危機感を募らせる。

 天草市本渡町の丸尾ケ丘。頂上に立つ記念碑には、「このあたり天草学林の跡という あらくさにまじるコスモスの花」とある。1937(昭和12)年に建てられたという。

 天草コレジオは当初、本渡城下にあったとする説が有力だった。そこへ58年、郷土史家の鶴田倉造さん(97)が「河浦説」を提唱した。鶴田さんは、イエズス会の宣教師ルイス・フロイスが書いた「日本史」などの記述を根拠に、宣教師たちが「首都天草」と呼んだ場所は河内浦(現在の河浦)だったと主張。「日本史」を訳した歴史学者も同調し、歴史学界の論争に発展した。

 ところが85年、本渡町のため池から十字架が刻まれた石碑が見つかり、「本渡説」が勢いを増す。天草郷土資料館の当時の館長が「コレジオ跡地を示す証拠ではないか」と発表。全国紙でも「コレジオ跡地論争に終止符?」と報じられたが、決定的とはいえず、論争はいったん落ち着いた。

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 再燃したのは90年代だ。

 河浦町が90年、「天草コレジヨ館」を建設。地元商店街も「天草コレジヨ祭」を催すなど、観光振興への活用に重点が置かれるようになった時期だ。93年3月には、当時の町役場の隣にある公園にコレジオ跡をうたう記念碑が建てられた。この頃には、河浦説が有力視されるようになった。

 この年の6月、本渡市議会で“反攻”ののろしが上がる。金子悟郎市議(当時)が「学林(コレジオ)は河内浦にあった」とする市史の記述を取り上げ「断定の根拠は何か」と追及したのだ。観光施設「コレジオの里」建設構想が市の基本計画から消えていることについても「重大な損失」と市執行部を批判した。

 金子氏は地域紙に「コレジオは本渡市の東向寺」とする論文を発表。これに対して、郷土史家が河浦説の妥当性を同じ地域紙に連載し、論争を繰り広げた。

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 近年、歴史研究者の多くは河浦説を支持している。しかし、根拠となる決定的な古文書などはない。コレジオを誘致したとされる豪族の天草氏は滅亡。天草・島原の乱(1637~38)を機に、江戸幕府によるキリシタンへの苛烈な弾圧が行われた結果、キリシタン関連の施設がことごとく破壊され、資料が散逸したためといわれる。

 天草市誕生から13年。論争を繰り広げた二つの自治体も今はなく、市は「天草コレジオはここ、という公式見解は持っていない」との立場だ。天草キリシタン館の緒方和雄元所長(70)は「タブーになり、表立ってだれも話さなくなった。一部の研究者がヒートアップして、一般市民の関心は低い」と指摘する。

 「熱心な郷土史家がいなくなった」と語るのは、サンタマリア館の浜崎献作元館長(75)。本業は歯科医だが、親子2代に渡って民間資料館を経営した在野の研究者だ。「コレジオの痕跡はきっとあるはず。謎だからこそ面白い」と情熱を傾ける。

 緒方さんも今月7日から月2回、天草キリシタン史の面白さを伝えようと、市民向け講座を始めた。「多くの人に参加してほしい」と張り切る。

 世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の登録から1年が過ぎた。構成資産の一つである崎津集落の観光客数は前年比で6~8割程度。市観光振興課のある職員は「キリシタンの遺産は、天草が世界に誇れる貴重な観光資源」と力説する。だとすれば、天草コレジオの謎も貴重な資源のはずだ。

 論争を知る郷土史家たちが年々減る中、11月下旬のローマ教皇来日の余韻が残る今こそ、謎に挑む最後のチャンスなのかもしれない。(金子寛昭)

 

 天草コレジオ(学林) キリシタンの最高学府。1591(天正19)年、長崎・加津佐から天草に移転。当時、天草地方を治めていた豪族・天草氏が誘致したとされる。97年に長崎に移転した。天正遣欧少年使節がヨーロッパから持ち帰った金属活字印刷機を使い、日本で初めて「イソップ物語」や「平家物語」が印刷され「天草本」と呼ばれた。

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