「ハネ木搾りの酒」守りたい 35歳8代目の挑戦 福岡・白糸酒造

西日本新聞 もっと九州面 竹森 太一

 昔ながらの「ハネ木搾り」で酒を造り続けている酒蔵が福岡県糸島市に残っている。1855(安政2)年創業の白糸酒造(同市本)。巨木につるす石の重みと、てこの原理で醪(もろみ)に圧力をかけ、酒をゆっくりとていねいに搾り出す。全国約1600カ所の酒造場の中でも、この古来の手法で全ての酒を製造しているのは白糸だけとされる。新酒造りが本格化した冬の蔵を訪ねた。

 100年ほど前に建った白壁の蔵では、ハネ木搾りを象徴する長さ8メートルのカシの木が宙に浮かぶ形で強い存在感を放っていた。少なくとも蔵と同じ歳月、酒造りを支えてきたものだ。

 40~110キロの石をぶら下げる作業で、若い蔵人の筋肉が震える。片側には長方形の酒船(おけ)。醪が入った酒袋が400枚以上積まれていて、最大約1・2トンという石の重量が作用して圧力がかかると、生酒が浸み出す仕組みだ。

 7代目の田中信彦社長(66)は「昭和40年代、近代化の波で多くの蔵が機械搾りを導入しましたが、先代は『品質のためには、ハネ木搾りが一番』と流されなかった。その意志を守り続けています」。

 ハネ木搾りは重労働で、短時間で搾りきることができる機械より減産となる。しかし、醪を十分に搾りきれない分、雑味成分が出にくい利点があるという。滑らかな口当たりが個性として際立ち、経営が厳しい時期もあったが、蔵は根強いファンに支えられてきた。

    ◇   ◇

 現在、杜氏(とうじ)として酒造りを仕切るのは、8代目に当たる長男で専務の克典さん(35)。東京農業大の醸造科学科を卒業し、縁あって「東一」で知られる佐賀県嬉野市の五町田酒造で1年弱学び、蔵の将来を見据え「地の利を生かす」大切さを教えられた。糸島市は酒の原料となるコメ・山田錦の栽培が盛ん。JA糸島によると、全国トップ5規模の生産量がある福岡県内産の約7割が糸島産という。

 「目の前に最高のものがある」。2009年夏に蔵に戻った克典さんは、従来のベテランの杜氏任せではなく、自ら主導する酒造りを決意。地元の山田錦と、脊振山系からの中硬水の伏流水を生かし、日常的に飲める純米酒(精米歩合65%)造りに挑んだ。温度管理などの各工程を「センシティブにやっていく」ことに気を使い、翌春に「田中六五(ろくじゅうご)」として世に出した。

 名称には、名字というだけでなく「山田錦の田んぼに囲まれている中で造った酒」の意味を込めた。少量生産で始まった新ブランドは販売ルートを特約店に限っているが、どんな料理にも合う「寄り添う酒」としてファンを増やし、この10年で主力の「白糸」に代わり、蔵の生産量の約7割を占めるまでになった。

 「品質については、ダーツの真ん中に矢を集めるように日々研さんしている。ただ、福岡の中では少しずつ認知度が上がっているが、全国的にはまだまだ」と克典さん。ハネ木搾りの良さは守る一方で、14年には外気温にかかわらず、安定した温度管理が可能な「冷蔵蔵」に改修する投資に踏み切り、最新の検査設備も導入するなど変化も恐れない。「食とのコラボ」を意識し、評判の飲食店に足を運んで営業につなげる時間も惜しまない。

 「田中六五は上質なカジュアル感がある“まちの酒”のイメージ。福岡の定番酒として深化させたい」。30代の8代目は、糸島から新たな食文化の一翼を担う覚悟だ。 (竹森太一)

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 2020年の蔵開きは、2月22、23、24日の3日間を予定している。白糸酒造=092(322)2901。

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