活動弁士に託した映画愛 映画「カツベン!」監督 周防正行さん

西日本新聞 諏訪部 真

 今から100年ほど昔、音のない映画が「活動写真」と呼ばれていた時代。上映に合わせた語りで観客を物語に引き込む「活動弁士」(活弁、弁士)が活躍していました。映画監督の周防正行さんが贈る最新作「カツベン!」がついに公開。活弁を夢見る青年を主人公とした、笑いあり、アクションあり、ロマンスありのエンターテインメント大作には、熱い映画愛が込められています。

 -なぜ今「活動弁士」なのですか?

 ★周防 長年映画監督をしていながら、無声映画の時代における活動弁士の存在を軽く見ていた気がします。今の監督からすれば、見ず知らずの人が勝手に場面の解説をして、登場人物の心情を代弁するなんて、我慢できないですよね。でも当時はそれが当たり前。活弁は「最後の演出家」として、映画を豊かなものにしていました。ネット配信が発達した今、映画は必ずしもスクリーンで見るものではなくなりました。だからこそ、映画文化が入ってきた初期の頃、人々がどんなふうに楽しんでいたか忘れてほしくない。活弁という仕事は、音声付き映画の普及で衰退はするけど、彼らが映画を支え、盛り上げていたことを知ってほしいと思いました。

 -主演の成田凌さんや、高良健吾さんの活弁シーンがありますね。

 ★周防 東京では無声映画の上映会をいろいろなところでやっていて、現役弁士もいます。上映会で出会った弁士の方に、出演者への指導を頼みました。それぞれの個性を際立たせたかったので、俳優ごとに別の指導者を当てました。成田さんには、しゃべりのプロの域に達してほしいとプレッシャーをかけ、声の大きさや七五調のリズムを身に付けてもらいました。観客が「活弁のしゃべりって面白いんだ」と納得してくれないと、いくら「活弁は役者、監督以上のスターだったんです」と主張しても説得力がないですから。

 -随所にこだわりがあるそうですが。

 ★周防 この映画自体が、昔の活動写真を意識しています。だから役者さんのお芝居も他の映画とはちょっと違う感じ。少し大げさというか、動きそのものの面白さを出すようにしています。映画の中で上映される活動写真も、今回新たに作りました。現存しているフィルムもあるので、同じようなカット割り、セット、衣装で撮りました。フィルムの古び方も調整していますよ。

 -日常的に触れる機会の減った活動弁士ですが、今の映画への影響は。

 ★周防 活弁のルーツは日本の伝統的な語り芸にあると思います。浄瑠璃や落語、講談、浪曲。紙芝居だってそう。伝統として語りがあるから、映像文化が日本に入ってきたとき、自然に活動弁士が生まれたんじゃないでしょうか。活動弁士という職業を知らない人や、実際に見たことがないという人だらけだけど、やっていたこと自体は延々と受け継がれていると感じます。ドラマに入るモノローグやナレーションがそれです。(テレビ番組の)プロ野球好プレー珍プレーでは、映像にせりふが付いてより面白くなる。まさに活弁ですよ。

 -劇中には、昔の映画館の雰囲気も再現されています。

 ★周防 映写技師が忙しいあまり、足で映写機を回しながら弁当食べたとか、実際に伝わっている話なんですよね。本当かよって思うんだけど(笑)。服を脱ぎながら話す弁士とか、昔の弁士の逸話も盛り込みました。あらためて実感したのは、音がなかった時代の映画館ってうるさかったんだなということ。観客は、写真が動くことに対する驚きや感動を自由に表現していた。弁士にやじを飛ばしもするし、さながらライブパフォーマンス会場です。最近は「応援上映」がはやっていますけど、先祖返りみたいで面白いよね。

 -「活弁ノススメ」をお願いします。

 ★周防 映画の音声を消せば、誰でも弁士のまねをして楽しむことができます。友達同士で「弁士ごっこ」なんていいんじゃないかな。映像に自分なりの語りを付けて配信するようなユーチューバーが、誕生するかもしれませんね。 (文・諏訪部真、写真・佐藤雄太朗)

 ▼すお・まさゆき 1956年生まれ、東京都出身。立教大卒。「シコふんじゃった」(92年)、「Shall we ダンス?」(96年)、「それでもボクはやってない」(2007年)などで数多くの映画賞を受賞。16年に紫綬褒章を受章した。

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