【DCの街角から】年末に漂う和みと緊張

西日本新聞 夕刊 田中 伸幸

 11月末のサンクスギビングデー(感謝祭)の祝日を終え、12月を迎えた米国は、クリスマス休暇に向けてほっこりとした雰囲気が漂い始めている。

 週末のショッピングモールは楽しげに買い物をする家族連れでにぎわい、行きつけの理髪店ではクリスマスをどう過ごすかで客と店員の会話も弾む。帰り際に全店員から「ハッピーホリデー(楽しい休暇を)」と声を掛けられ、私も頬が緩んだ。

 米アカデミー賞の受賞作として有望視される映画の公開も相次ぐ。「寛容」「融和」の大切さを問う話題作を見た映画館では、高校生とおぼしき少年が幼い弟たちに映画の意味するところを優しく説明する姿を見掛け、何ともほほ笑ましかった。

 しかし、自宅に帰ってテレビをつけると、トランプ大統領お気に入りの保守系女性キャスターが、トランプ氏の弾劾罷免を目指す野党民主党を罵倒する発言を連発していた。

 逆にトランプ氏に批判的なリベラル系のテレビ局は弾劾調査の現状や展望についてしつこく報道する。与野党が全面対決する政界と、トランプ氏への賛否を鮮明にした上で政争を伝えるメディアほど、寛容や融和から縁遠い存在はなかろう。仕事柄、報道を見ないわけにはいかないが、せっかく和んだ気持ちを返してくれと言いたくなる。

    ☆    ☆

 不思議なのは、米国人の知人たちが最近、政治についてあまり話題にしないことだ。

 昨年に続いて感謝祭の夕食会に招待された家庭では、弾劾報道が過熱しているだけに政治談議に花が咲くだろうと思っていたのだが、盛り上がるのは映画やシーズン真っ盛りのアメリカンフットボールの話ばかり。近くにいた女性に選挙の話を持ちかけたが3分と持たなかった。

 先週末の飲み会でも、米国人の知人は「弾劾の動きはチェックしている」と言うものの、言葉少な。同席した日本人たちも私と同じような印象を抱いていて「もう熱が冷めたのだろうか」と首をかしげた。

 感謝祭の夕食会などでは、口論につながりかねない政治の話を避けるとはよく耳にする。とはいえ昨年の今頃は和やかな場の中でも、トランプ氏の善しあしなどが話題に上っていた。

 与野党の大統領候補を決める予備選挙や党員集会が年明けに始まる時期だけに、慎重になっているのかもしれないし、政争にうんざりして口にしたくもないのかもしれない。知人たちの真意はつかめないが、来年の感謝祭の頃には大統領選は終わっている。彼らのパーティーの場が融和に満ちあふれた和やかな雰囲気になるのか、それとも今年以上にピリピリとした緊張感が漂うのか。鬼は笑うかもしれないが、非常に興味深い。 (田中伸幸)

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