「子どもの正論」から逃げるな

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 「お父さん、うちはお金がなくて生活が苦しいのに、どうしてお父さんは毎日パチンコに行って、お酒を飲んでるの?」

 子どものごく当たり前の疑問に、お父さんは顔を真っ赤にしてこう言う。

 「う、うるさいっ。子どもにはわからん!」

 確かにギャンブルをしたくなり、お酒を飲みたくなる複雑な心境は子どもにはわからないかもしれない。「大人の事情」である。しかし、生活が危機的なのにパチンコや酒を続けていていいはずがない。

 子どもに「正論」を突きつけられた大人はたいてい「子どもにはわからん!」と怒りだすものだ。

   ◇    ◇

 スウェーデンの高校生、グレタ・トゥンベリさん(16)が温暖化対策を求めて週1日の学校ストライキを始めた運動をきっかけに、世界中の若者の間に地球温暖化に対する強い危機感が広がっている。

 「人々は苦しみ、死にかけ、生態系全体が崩壊しかけている。それなのにあなたたちが話すのは金のこと、永遠の経済成長というおとぎ話だけ」「若者たちはあなたたちの裏切り行為に気付き始めている。私たちを失望させる選択をすれば、決して許さない」

 今年9月の国連気候行動サミットで、スピーチに立ったグレタさんは、気候変動への十分な対策をとらない世界の首脳たちに対する怒りをあらわにした。

 大人をたじろがせる「子どもたちの正論」である。

 居心地の悪い大人たちは、やれ主張が過激だの、親が洗脳しているだの、学校ストライキはずる休みだの、陰謀論さえ持ち出して正論をおとしめようと躍起である。最後はこのせりふだ。「世界の複雑さは子どもにはわからない」

   ◇    ◇

 グレタさんの口調は厳しいが、科学的に極端な主張をしているわけではない。大筋で言えば、世界の指導者は「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)など科学者の声を真剣に受け止め、パリ協定で示された「気候の公平性」の視点に沿って行動せよ、という主張だ。彼女がいら立っているのは政治家や企業首脳の「危機感のなさ」なのである。

 「親の洗脳」というストーリーも怪しい。グレタさんの母親が書いた本によると、環境問題についてはむしろグレタさんが両親を説得したらしいのだ。

 学校ストライキについてグレタさんはこう言っている。「現行の学校制度における科学の最高峰が最も重要な事実(温暖化の危機)を伝えているのに、政治家や社会にとってそれが無意味であれば、その学校制度の中で事実を学ぶ意義は何でしょう?」

 ぐうの音も出ない。

   ◇    ◇

 現在の社会が直ちに最優先で温暖化対策に取り組むのは容易ではない。最大の障害は経済活動との折り合いである。そこには「大人の事情」がある。

 かといって、科学が提示している差し迫った危機から目をそらし、これまで通りの政策を続けるのは「お金がないのに酒を飲んでいる大人」に等しい。

 つまるところ「大人の事情」は「子どもの正論」に勝てない。大人が子どもたちに誠実に答えようとすれば、こう言うほかないのだ。「ごめん。明日からちゃんとやるから」と。

 (特別論説委員)

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