大人の柔道、静かなブーム 勝負より体力維持 「熊武会」参加広がる

西日本新聞 熊本版 和田 剛

 熊本市中央区水前寺の熊本武道館で、仕事帰りに汗を流す社会人の柔道愛好家が増えている。柔道が盛んといわれる熊本でも、激しい体のぶつかり合いを敬遠し競技引退後は道場を離れる人は多いが、勝ち負けよりも技の上達や体力維持を重視する「大人の柔道」が少しずつ支持を広げているようだ。

 「打ち込みされますか? 私が受けますよ」「5分間くらい、軽く乱取りしましょうか」

 13日夜、武道館の柔道場で30~60代の男性4人が組み合って練習を始めた。途中で、小中学生を連れた親子3組も加わり、技の基礎を反復練習。最後は全員で整列し、あいさつして締めくくった。活動は火~金曜の午後7~午後9時ごろ。女性や高齢者が参加することもあり、互いの体力や経験の違いを考慮して技を掛け合う。

 武道館に集う柔道愛好家たちは「熊武会(くまぶかい)」と名乗り、無料通信アプリLINE(ライン)に登録した約70人が練習や試合の情報を共有するが、会則も会費もない。練習したい日に来て、柔道場の個人使用料170円を払うだけだ。熊武会のウェブサイトは「むちゃをしない、けがしない・させないことが唯一のルール」と、緩やかな集まりであることを強調する。

 10年ほど前から武道館に通う熊本市東区の薬剤師田村公寛さん(41)によると、当時は10人前後の柔道愛好家が三々五々集まっていた。しかし2016年4月の熊本地震で武道館が被災し練習できなくなった。

 柔道場が完全に復旧したのは18年3月。再び練習参加者を増やそうと、田村さんがLINEでの情報交換を始めた。他の参加者も熊武会のウェブサイトやフェイスブックのページでPRした結果、毎週のように新規参加者が来るようになった。

 社会人のほか、学校に柔道部がない中高生、コスタリカの道場に所属し県内に一時帰省した女性など、顔触れは多彩だ。

 日々の練習以外の活動も広がっている。

 20~50代の腕自慢の選手たちは、10月20日の県実業団対抗柔道大会に「熊武会」として出場し、団体戦初勝利を挙げた。

 熊本市南区の主婦折尾玲奈さん(41)は5月から毎月、熊武会の参加者や外部の指導者とともに女性と初心者向けの柔道講習会を企画。今月14日には熊本武道館で7回目を開催した。折尾さんは16年、当時中学1年の長男が通っていた少年柔道教室で柔道を始め、昨年から熊武会で練習を積み2段になった。「柔道をやりたかったけど、初心者が参加できる場がなかった。柔道に出合えて幸せ」と活動の広がりを喜ぶ。

 元肥後銀行柔道部監督で、熊武会にも参加する平田広満6段(67)は「熊武会は、年を取った経験者や大人の初心者の貴重な受け皿。楽しんで長く柔道を続けることに意義がある」と活動を見守る。 (和田剛)

◆兵庫教育大有山篤利教授に聞く 生涯楽しむ新しい形に

 熊武会の発足後、武道館柔道場は平日夜にもにぎわいを見せているが、同じ武道館の剣道場に比べると参加者が少ないようだ。「なぜ、柔道は歳をとるとできなくなるのか?」という視点で、新たな柔道普及のあり方を提言している兵庫教育大の有山篤利教授に「大人の柔道」の可能性を聞いた。

 私は柔道部員だった大学生のころ、剣道にも興味を持ち、初段の試験を受けた。剣道仲間から「力任せではだめ。正しくきれいに打たないと、落とされるよ」と助言されて驚いた。柔道の昇段では、試合の勝利が最も重視されるからだ。

 全日本柔道連盟のホームページによると、2016年の柔道人口(連盟登録者)は小学生約3万5千人、中学生約3万5千人、高校生約2万3千人、大学生約1万4千人と、進学するに従い減っている。社会人が約2万人、指導者・役員が約3万人と、大人で柔道を続ける人は少ない。年々、柔道人口全体も減っており、背景に少子化があるとはいえ心配だ。

 柔道専門誌の読者層は過半数が20代以下だが、剣道専門誌は40代以上が過半数という研究もあった。

 そこで、5段以上の複数の柔道家と剣道家へのインタビューから言葉を拾いデータ化したところ、両者の特徴が見えてきた。

 「スリルと興奮」では、柔道家は「強い人と戦って勝つ。技が決まる」を、剣道家は「攻防の中での身体的・精神的かけひき」を、それぞれ重視していた。「真剣な練習や勝負」では、柔道家は「若いころは自分自身の鍛錬。指導者になってからは生徒に求める」。剣道家は「求道者的に自分自身の鍛錬や修養をする」と、違いがある。

 戦時中から高度経済成長、バブル経済のころまでは、五輪で勝つ柔道選手という強い人物像が時代と合っていた。しかし、目標を自分で創造することが求められる時代になった。「自己完結型の楽しさ」や「過程重視の楽しさ」があってこそ柔道が生涯スポーツとして発展するだろう。

 熊武会は、競技と縁がなかった大人も自発的にそれぞれの柔道を楽しんでおり、素晴らしい環境だ。 (談)

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