デモ隊銃撃映像を世界に 抗議活動の最前線走る香港の学生記者

西日本新聞 国際面 川原田 健雄

 中国が建国70年を迎えた10月1日、香港では警察が初めて実弾でデモ隊の若者を銃撃。至近距離で発砲する瞬間を捉えた動画はインターネットで拡散され、世界に衝撃を与えた。撮影者の一人、香港城市大の学生記者アンソニー・ウーさん(21)は「あの時、取材をやめて助けなくてよかったか」と今も自問する。現場取材の重みを痛感しながら香港の今を発信し続ける。

 銃撃は午後4時ごろ、香港郊外の〓湾(せんわん)地区で発生した。店舗が並ぶ街中で約200人のデモ隊が警官約30人と衝突。ウーさんは城市大の学内メディア「学生会編集委員会」の写真記者として現場に入り、催涙弾と火炎瓶が飛び交う様子を一眼レフカメラと、ヘルメットに装着した小型ビデオカメラで撮影した。

 当初、警察とデモ隊がにらみ合っていた現場は双方が入り乱れる混乱状態に。傘や棒を手にした全身黒ずくめの若者たちと武装警官がもみ合いになると、別の警官が駆け寄り、おもむろに右手の銃を若者に向けた。「ダーン」。発射された実弾は男子高校生(18)の左胸を直撃。ウーさんは約10メートル離れた場所から見ていたが「最初、催涙弾の音か何か分からなかった」。仰向けに倒れた高校生の胸から血が流れているのを見て「動揺して何もできなくなった」と明かす。

 ウーさんは動画をすぐに仲間へ送信。編集した映像をフェイスブックなどで公開すると報道機関から問い合わせが相次いだ。銃撃の瞬間を撮影できたのはウーさんを含む学生記者3人だけ。スクープ映像だが、気持ちは晴れなかった。

 「高校生が意識を失わないようずっと話し掛ければよかった」「救急車をなぜ呼ばなかったのか」。帰宅後、後悔ばかりが頭に浮かんだ。高校生は幸い一命を取り留めたが「もし亡くなっていたら、あれが言葉を交わす最後の機会だったかもしれない。彼の家族のためにもちゃんと話を聞くべきだった」と振り返る。

 学生らの活動や地域の出来事をフェイスブックやインスタグラムで発信する学生会編集委員会には約40人が所属。約20人の記者が最前線で抗議活動の取材を続ける。「さまざまな角度から物事を伝えることが大事。その一端を学生メディアが担っている」と自負する。一方で、報道機関の正式な記者証がないため、警察から取材を制限されることもあるという。

 抗議活動に参加するのは同年代の若者。応援したい気持ちはある。「でも記者はあくまで中立な立場。一緒に気勢を上げることはできない」と取材に徹する。

 電子工学を学ぶウーさんは現在4年生。IT企業への就職を希望するが、来年6月の卒業までは現場でカメラを構える覚悟だ。「一連の抗議活動は香港の鍵を握る運動だ。この大事な動きをしっかり記録したい」 (香港で川原田健雄)

※〓は「くさかんむり」に「全」

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