最も誤解されやすい「難発」 菊池良和(九州大病院・吃音外来医師)

西日本新聞 医療面

吃音~きつおん~リアル(9)

 「答えられないならば、出て行って」。小学4年の算数の授業で、先生が大声で女児を叱りました。女児の学力を考えれば答えられるはずだと思って質問したのに、女児は先生を見つめたまま、何も答えません。授業は進まず、いらいらした先生は「中学生になったら、もっと厳しいよ」と叱責(しっせき)しました。女児は泣きだしてしまいました。

 吃音(きつおん)には、「わ、わ、わ、わ、私は」と繰り返す連発、「わーーーたしは」と最初の音を伸ばす伸発、「…(数秒間)…私は」となかなか言葉が出ない難発の3種類があります。実は、相手に声が届かない難発は「わざと黙っている」「コミュニケーションを拒否している」などと最も誤解されやすいのです。

 女児の帰宅後、話を聞いた両親は「難発の吃音があるから、すぐに答えられなかった」と担任と校長に説明しました。学校は重大な事案と判断し、この算数の先生を女児の教科担任から外したそうです。

 小学校では最近、学級担任以外の先生が複数のクラスで専門教科を教える「教科担任制」という試みが広がりつつあります。学級担任には伝えていた吃音のことが、教科担任には情報共有されていませんでした。吃音は100人に1人。どの学校でも起こりうる事例です。

 吃音のある子どもが困るのは、いつも「聞き手」の問題です。子どもたちが発表することを重んじる学校生活で、黙って何も答えない場合、吃音などの可能性を疑ってみてください。知識と想像力を身に付け「なぜ言葉を発しないのか」と考えてみてください。

 先日も、日直の児童が「起立、礼」の号令をうまく言えなかったことを巡り、教諭が学級の児童全員を約1時間、立たせたというニュースがありました。私は、この日直の児童は吃音の可能性があると考えます。

 学校という1日の大半を過ごす場で、子どもが安心して過ごせるか。それとも不安や恐怖を抱えながら過ごすのか。吃音への理解が広がることを願っています。 (九州大病院医師)

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