【あなたの米大統領選】「社会主義」なぜ注目 格差拡大「誰のための資本主義か」 

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 「米大統領選で急進左派の候補が支持を広げているのはなぜ?」。西日本新聞あなたの特命取材班に、こんな質問が複数寄せられた。トランプ大統領が「社会主義者」「極左」とやり玉に挙げる野党民主党候補の支持者を取材すると、学生にのしかかる多額の借金や自然災害の激化など米社会が直面する課題に危機感を募らせていた。彼らはその元凶を資本主義に見いだし、社会主義的な「大きな政府」による抜本改革に希望を託している。 

 11月の平日の夜、首都ワシントンに隣接するバージニア州の図書館で、全米最大とされる社会主義団体「米国の民主的社会主義者(DSA)」の地方支部の会合が開かれた。集まったのは「ミレニアル世代」と呼ばれる20~30代が中心の15人。最近、越してきたという初参加の若者もいた。

 会合では大統領選も議題に上った。政府の役割を大幅に拡充し、大企業に増税や規制を課して格差の是正を図るなど彼らの主張する政策を選挙戦の中でどう浸透させるか、意見が交わされた。それらの政策はサンダース上院議員ら民主党最左派候補の公約と重なる。

 頻繁に発言したのは両親がアジア系移民の会社員カイザーさん(36)。トランプ政権の不寛容な移民政策に強く反対する主張に共感してDSAに加わった。この日も「移民取り締まり強化に応じる企業に抗議しよう」と協力を求めた。

 カイザーさんが活動を始めた背景には「チェンジ(変革)」を訴えたオバマ前大統領への失望もあった。一例が「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度改革だ。「しないよりマシだったが、中途半端に終わった」

 今春、カイザーさんは激しい腹痛に襲われ、病院で救急治療を受けた。だが、加入していた民間の保険が適用されるかどうかで保険会社側とトラブルに。さらに自己負担額を巡る交渉が半年も続いた。妻は結婚前、家計が苦しくて保険に入れないまま交通事故に遭い、約200万円の治療費を14年かけて支払った。

 カイザーさんはオバマケアに、国民皆保険の実現に加えて、保険会社主導で負担額が決まる患者側に不利な医療費の仕組みの改善も期待した。だが「多くの国民はなお無保険のまま。弱者が泣き寝入りする状況は変わらなかった」

 サンダース氏や、同じく最左派候補のウォーレン上院議員は、民間保険を全廃して公的保険に吸収する皆保険制度を提唱する。カイザーさんは「国民は苦しんでいる。劇的な変化が必要だ」と信じて疑わない。

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 ワシントンのDSA支部で活動する私立大講師のケビンさん(34)が問題視するのは負担増が深刻化する学生ローンだ。自身、大学卒業から13年後の現在も返済を続けているが「学費はさらに高騰している。今の学生の負担は、私の世代の比ではない」と案じる。

 教え子の学費は年500万円弱。生活費にも苦労し、アルバイトに追われて授業を休みがちな学生もいる。ある調査によると、学部卒の場合、全米平均で3百万~4百万円程度の借金を抱えるという。報酬の高い職に就くには修士以上の学歴が求められる傾向が強く、借金額はさらに膨らむ。

 「『社会に尽くしたい』と教員や公務員を志しても給料が安く、借金が返せないので諦める学生もいる。それが米国にとっていいことか」。現状を正すには学生ローンの返済免除や公立大の無償化など、政府による教育分野への関与を強める抜本改革が急務とケビンさんは考える。

 「民主党でも、オバマ政権を含めた既存政治の流れをくむ穏健派の政策は、苦しんでいる国民には『現状維持』と映る。必要なのは富の再分配につながる急進的な政策だ」

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 社会民主主義に基づく北欧のような「大きな政府」を支持する層はミレニアル世代から10代にも広がる。

 今月6日、ワシントン中心部であった環境保護を訴えるデモ行進の列には、温室効果ガスを大量排出する産業や、それらの企業に融資する銀行を念頭に「現行の企業活動に終止符を」と書かれた横断幕を掲げる高校生たちがいた。

 その一人、ベンさん(17)は「地球を守るには大改革が必要。国家がその役割を果たすべきだ」と強調した。来年の大統領選で初めて投票するベンさんは「サンダース氏の政策を気に入っている」と話した。

 ウォーレン氏を支持するという女子高校生(17)は今夏の豪雨で自宅近くの道路が1カ月以上通れなくなった体験を語り「本当に怖い。何か手を打たないと」と焦りを募らせていた。

 彼らに共通するのは資本主義への懐疑と、将来への強い不安だ。ミレニアル世代には2008年の金融危機で親が失業し、苦しい生活を余儀なくされた人も少なくない。その後、景気は回復したとはいえ、企業や富裕層が潤う一方で、格差は拡大。都市部を中心に家賃など生活費は上昇し「誰のための資本主義か」と不満が渦巻く。

 11月、バージニア州であったDSA支部の会合後、会場に残ってカイザーさんと話し込んでいた中心メンバーの会社員ハンターさん(31)は自信を込めて言い切った。「多くの国民を苦しめる資本主義を見直すため、社会主義的な政治に取り組む価値はある」

 トランプ氏や保守層は「米国に社会主義は不要」と非難を強める。気にならないかと尋ねると、2人は笑った。「何と言われようが構わない。メンバーは増えている。今、私たちの運動は誰にも止められない」

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 来年の米大統領選まで1年となった11月、西日本新聞「あなたの特命取材班」は米大統領選や米国についての質問や意見をあな特通信員に募った。1カ月間で140人から回答が寄せられ、関心の高さがうかがえた。今後、通信員の疑問を本紙ワシントン特派員が“深掘り”し、随時報告する。(ワシントン田中伸幸)

 

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