「伴走型」重視の制度に 現場の声、改正へどう反映 

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

成年後見はいま 開始20年(記者ノート)

 成年後見制度の連載を通して、求められる支援と、今の仕組みがかみ合わない現状をつぶさに見てきた。専門家が後見人になることへの抵抗、報酬の適切な算定のあり方など課題は多い。特に感じたのは、制度が本人に寄り添う「伴走型」の運用になっていない点だ。

 耳に残った言葉がある。「後見詐欺」ー。福岡市で11月に開かれた成年後見のシンポジウムで、厚生労働省の職員が紹介した。

 知的障害のある子どもの親が、制度に対して発した言葉という。自分の子は施設暮らしで外出はしない。制度を使えば、専門家の後見人に月2万~3万円の報酬を支払うことになる。少ない面会で財産管理だけを担う現実から、後見詐欺との印象を持ったのだろう。

 これこそ、現状への不満を象徴する言葉ではないだろうか。

 後見人の業務は財産管理と、療養や介護関連の契約といった生活支援。ただ、生活支援は料理や入浴の介助、家事、買い物など日常生活に関することは含まない。その「教科書通り」の対応が不信を招いている。

 厚労省が2017年度、知的障害者の入所施設から約670の回答を得た調査では、後見人の専門家が面会に訪れない実態が分かった。弁護士の面会は「年1、2回」「ほぼ来ない」が計77%に上り、司法書士は同43%。会う時間は「10分以内」が最多。果たしてこれで、本人の意思を尊重した支援ができるのか。

 もちろん、何度も訪問や電話で対応し、報酬さえ辞退する専門家はいる。問題は個々人の姿勢でサービスに差が出て、放置される人が生まれていることだ。

 面会を重ね、福祉サービスが適切かを点検する。不十分なら追加し、支援がおろそかになっていれば事業者に注意する。意思表示が難しくても理解に努め、意向を尊重する。後見人に必要なのは、こうした「伴走型」の姿勢だろう。それを可能にする制度作りを市民は望んでいる。

     ◇◇

 「後見人を自由に選べず、他人に財産を管理され、報酬負担も生じる」。こんな声も多く聞いた。

 福岡県の70代男性は、親族から後見人になるよう頼まれた。親戚2人の後見人を無報酬で務めた経験がある。だから今回も無償で引き受けるつもりだった。

 だが、家庭裁判所は「後見人は専門家にしたい」。そうなると本人が亡くなるまで報酬を支払う必要があり、預貯金は目減りする。

 「財産を守るのでなく、減ってしまう。なぜ私では駄目なのか。人格を否定された気分だ」。家裁から明確な回答はないという。

 本人に合った後見人を選び、柔軟に交代できる運用は国も着手したばかり。後見人の職務に応じて報酬額を決めるルール作りや、難しい制度を高齢者に丁寧に説明する窓口も整える必要がある。取り組む課題は多い。

 制度開始から20年。国が進める見直しは、こうした現場との「ずれ」をなくし、多くの人が納得できる形にしなければいけない。成年後見の理念は、本人の能力を生かしながら、意思を尊重し、権利を守る。実現への道のりを、今後も取材していく。 (編集委員・河野賢治)

■「限定後見」の導入を  山野目章夫・早稲田大大学院教授(民法)

 現行制度は法定後見の利用が一度始まると、本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで続くルールになっている。後見人に専門家が選任されれば、この間ずっと報酬を支払うことになり、批判は大きい。重要な手続きが必要な時だけスポット的に利用できる「限定後見」を導入すべきだ。

 銀行口座の解約や不動産の売却、施設の入所契約などを本人に代わって手続きすると、後見人が辞任し、制度利用も終わる形。民法を改正し、これができるよう明記する。報酬の負担は一時期で済む。

 それ以外の期間は、家計管理や福祉サービスの利用を手助けする国庫補助事業「日常生活自立支援事業」で対応するといい。判断能力の衰えが軽度の人に、おおむね低料金で実施しており、成年後見と一体的に運用する制度設計にする。自立支援事業は利用者が増えており、実施主体の社会福祉協議会への予算や人員配置の手当ても必要だろう。

 一方、当面は後見人に親族を選任したり、専門家から親族に交代したりする国の構想を対症療法で進める。2021年度までに市町村に設置され、後見人に適した候補者を調整する「中核機関」の役割が大きくなる。

 後見人への報酬も課題。資産は少ないのに利用は長期にわたる知的障害者などに、減額せず画一的に請求している点が問題になっている。報酬の標準的な在り方の議論を深め、安易に基準を当てはめずに、職務内容や本人の資産を勘案して決める運用が望まれる。

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