九州の被災ランナー、聖火に決意 「復興へ進む姿見て」

西日本新聞 一面 河野 潤一郎 長田 健吾 笠原 和香子

 東京五輪の聖火ランナーには、熊本地震や九州豪雨など大きな災害に見舞われ、復興への歩みを進める人たちも選ばれた。苦難を乗り越える強い決意や、各地から寄せられた支援への感謝を胸に聖火をつなぐ。

 「深い痛手を負った町民が団結し、とにかく前向きに頑張らんと」。8月末の記録的大雨で大きな被害を受けた佐賀県大町町の農業森勇さん(73)は、前回の東京五輪に続き2度目の聖火リレーに臨む。

 中学2年で父親を亡くした。卒業後に後を継ぎ、農地拡大に汗を流した。前回のリレーは青年団員の時。沿道では大勢が日の丸の小旗を振ってくれた。トーチからは煙がたなびき、重かったことを覚えている。

 大雨では田畑が水に漬かり、米と大豆の収量は大きく減った。そんな頃、聖火ランナー募集を知った長男が「また出てみんね」と背中を押してくれた。「思うようにならんこともあるけど、くよくよしても始まらん」。走る姿が被災者へのエールになればと願う。

 2017年7月の九州豪雨で自宅や職を失った大分県日田市小野地区の伊藤元裕さん(68)も聖火ランナーに選ばれた。豪雨で店舗兼住宅が全壊。家族との思い出の写真なども失った。なかなか前を向けなかったが、周囲に支えられ、今は地域おこしグループの一員として地域再生に力を入れている。「復興はまだ道半ば。多くの被災者の力になれるような走りをしたい」

 熊本県では東海大熊本キャンパス(熊本市)の学生10人が選ばれた。16年4月の熊本地震で学生3人が犠牲となった旧阿蘇キャンパス(同県南阿蘇村)に通い、記憶を風化させまいと語り部活動を続け、農業支援にも取り組んでいる。

 内定の一報を受け、農学部1年の中山魁仁(かいと)さん(19)は「阿蘇の人たちの思いと一緒に走りたい」、同2年梁池(やなち)美歩さん(20)は「復興が進む阿蘇の姿を見てほしい」と力を込めた。

 コースの南阿蘇村は今も山肌が剥がれ、復旧工事の重機が目立つ。「『地震があった悲しい場所』というイメージを変えたい」。5月、新緑の阿蘇の美しさを世界中に届けられたらと思う。 (河野潤一郎、長田健吾、笠原和香子)

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