聞き書き「一歩も退かんど」(44) 裁判官が取調室視察 志布志事件冤罪被害者 川畑幸夫さん

西日本新聞 オピニオン面 鶴丸 哲雄

 私が起こした踏み字国家賠償訴訟は予想通り、鹿児島県側と全面対決の構図になりました。2004年5月の第1回口頭弁論で、県側が請求棄却を求める答弁書を提出してきました。

 思わぬ展開があったのが7月の第2回弁論。県側は書面で「原告の足首を軽く持ち上げて1枚の紙の上に置いた」と、踏み字を少しだけ認めてきたのです。ただ「原告に反省を促し、事実を正直に話してほしいという取調官の熱心さから出た行為」と、拷問は否定しました。年上のおじさんをあれだけ罵倒した上、無理やり踏み字までさせておいて何事か、と不満は残りますが、一歩前進です。

 そして翌05年1月、私たちは志布志署取調室の現場検証を申請します。実際に踏み字が起こった現場を裁判官に検証してもらい、どちらの主張が真実か判断してもらおうと考えたのです。県側は「今後の取り調べに支障が出る」などと猛反対してきました。

 しかし、高野裕(ゆたか)裁判官はあっぱれな決断をします。「原告の記憶を喚起させるためにも現場を見る必要がある」というのです。県側が「警備が大変」と渋ると、「ああ、それは大丈夫です」と一蹴。ただし、裁判の証拠にしないという前提で、「検証」ではなく単なる「視察」になりました。

 6月10日。志布志署で待ち受けていると、裁判官が到着しました。私が通されたのと同じ裏口から入り2階へ。三つの取調室のうち真ん中の窓のない部屋に案内しました。扉を開けると、裁判官が「暗いなあ」。私がすかさず「ここにスイッチがありますよ」と点灯すると、「そこまで知ってるの」。どっと笑いが起こりました。

 県警は文書で、隣の廊下側の取調室を使ったと主張していましたが、私は「この部屋でした」と断言しました。同行した職員が天井の高さ、机や入り口のサイズを丹念に計測。裁判官から踏み字の状況の質問があり、私は「この椅子に座らされ、足をこうされました」と実演しました。

 さらには「刑事がトイレまで付いてきました」と訴えると、裁判官は「じゃあ、そのようにしてください」。で、一同ぞろぞろとトイレへ。ドアをたたかれたことなどを訴えたら、熱心にメモしていました。

 裁判官を見送った後、私は大きな手応えを感じました。狭い密室で一方的に責められ、肉親まで侮辱された痛みを、裁判官はきっと分かってくれたのでは。 (聞き手 鶴丸哲雄)

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