「戦争もういらない」教皇、理論と感性で訴え 二つの被爆地演説

西日本新聞 長崎・佐世保版 華山 哲幸

 11月23~26日に来日したローマ教皇フランシスコは長崎の爆心地で、核保有国が互いをけん制することで戦争が回避されるという「核抑止論」に基づく安全保障を否定し、信頼関係の醸成で平和を築くよう求めた。広島では原爆投下直後の惨状に触れ、記憶を語り継ぐことが「倫理的命令」と述べた。地球上に暮らす私たち一人一人が過去を忘れず、命を守るよう説いた。

 「今、拡大しつつある相互不信の流れを壊さなくてはなりません」。同24日、長崎市の爆心地公園に立つ原爆落下中心地碑に長い祈りをささげた教皇は、演説で強い危機感をにじませた。

 政治をつかさどる指導者に対し、「核は国家の安全保障に関し、私たちを守ってくれない」と呼び掛けた。米ロの対立に北朝鮮も絡む現状を打破するため、何度も口にしたキーワードは「相互の信頼」だ。

 核というカードを持たないと相手と向き合えないようでは、74年前にこの国が経験した悲劇的な結末しか訪れない。教皇はそのことを、自身が初めて訪れた長崎を「証人である町」と表現することで、深く心に刻んでもらおうとしたようだ。核兵器禁止条約を示し、国際法の原則にのっとって行動することも宣言した。

 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の田中熙巳代表委員(87)は「核兵器を持つ人類への警告だった。被爆者の運動を励ましてくれた」と評価する。

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 一方、広島市の平和記念公園での演説は人間の感情に訴える言葉が目立った。

 「一瞬のうちにすべてが破壊と死というブラックホールにのみ込まれました」。冒頭、14万人の命を奪った8月6日の惨状に言及。亡くなった人たちの「すさまじい叫び声が今なお聞こえてくる」と続けた。

 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲氏(51)は「一人一人に対して情緒的に訴え、心を打つものだった」と振り返る。

 教皇はさらに被爆地で起きた出来事を「思い出し、ともに歩み、守ることは倫理的命令であり、よりよい将来を築く保証になる」と強調。メッセージの最後では「戦争はもういらない、と声を合わせて叫ぼう!」と、強い言葉で呼び掛けた。

 核に依存する国の指導者を長崎で強く追及し、広島では広く市民に呼び掛けた。川崎氏は二つの被爆地での演説を「セットで捉えたほうがいい」と指摘する。

 ナガサキの被爆者の理論的支柱だった故土山秀夫氏(2017年に92歳で死去)は、核廃絶を実現するには、核が不要だとする「理論」と、原爆の悲惨さを伝える「感性」の両輪での訴えが重要だと語っていた。今回の教皇のメッセージはこれと重なる。

 教皇は「被爆者」という言葉を一度も使っていない。彼らが「いなくなる時代」を見据えたのか定かではないが、宗教団体、市民社会、核保有国と非保有国、軍隊、民間、国際機関などすべての人たちが現状を的確にとらえ、考えないといけない。教皇のメッセージは、私たちにそんな課題を突きつけたような気がしている。(華山哲幸)

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