米中貿易合意 制裁合戦の愚繰り返すな

西日本新聞 オピニオン面

 二大経済大国の間で制裁と報復が繰り返される事態はひとまず回避された。米国と中国が貿易協議で「第1段階」の合意に達し、新たな制裁措置は見送られた。昨年来、両者の対立に振り回されてきた世界経済にとっても朗報だ。

 長引く米中貿易戦争には覇権争いの側面がある。安全保障に加え先端技術の優位性争い、中国国内の人権や香港、台湾の問題など火種は通商にとどまらない。抜本的和解の道筋を見いだすのは難しいが、高い関税をかけ合っても出口が見えないのは明らかだ。両国には対話で歩み寄る努力を重ねて求めたい。

 米国が今回発動を見送ったのは、対中制裁措置「第4弾」のうち15日に予定されていた1600億ドル分(約17兆5千億円)だ。中国製品のシェアが高いスマートフォンや玩具などが含まれる。追加関税が課されれば、米国のクリスマス消費にも深刻な影響が出るとみられていた。

 米国は、合意文書への署名の30日後に、第4弾として9月に発動済みの中国製品1200億ドル分への追加関税率も半分の7・5%に引き下げるという。

 米国の関税引き下げは、貿易摩擦が激化し、追加関税を課した昨年7月以降では初めてとなる。交渉の成果を来年秋の米大統領選に向けた実績にしたいトランプ氏と、経済成長の鈍化が顕在化してきた中国の習近平国家主席の思惑が一致し「一時休戦」にこぎ着けた形だ。

 とはいえ楽観はできない。今回の合意についてすら、両国の説明には食い違いがあるのだ。

 中国側は、米国の追加関税の段階的取り消しで合意したと発表しているが、米国は制裁第3弾までの2500億ドル分の中国製品に対する措置は継続する構えだ。中国が受け入れたとされる米農産品の輸入拡大についても、トランプ氏は「年500億ドルになると思う」と国内農家向けにアピールするが、中国側は数字への言及を避けている。

 今回の合意項目には、知的財産権保護の強化や技術移転強要の是正、金融部門の市場開放なども入った。こちらも、中国の取り組みが不十分なら問題が再燃する恐れが否定できない。

 その先には、共産党による支配という中国の統治体制にも関わる難しい問題が横たわる。日本や欧州連合(EU)も問題視する、国有企業への補助金の見直しといった構造改革は先送りされている。中国の拒否反応は強く、米大統領選が終わるまで交渉は進まない可能性がある。

 米中対立の影響もあり今年の世界経済の成長率は2008年のリーマン・ショック後最低となる見通しだ。両国が制裁合戦に戻る愚だけは避けてほしい。

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