迷惑顔や無関心も…電動車いすに乗る18歳「一人で出歩きたいけど」

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

連載:バリアフリーの現在地(1)

 「一人で出歩きたいけど、大変なんです」。取材で知り合った、電動車いすに乗る樋口夏美さん(18)=福岡県八女市=から相談が寄せられた。街には変わらずバリアー(障壁)が満ちあふれ、「身の危険」さえ感じるという。障害者差別解消法が施行されて3年。障害の有無にかかわらず誰もが分け隔てなく暮らせる社会を目指すルールだが、あまり知られてはいない。バリアフリーはどこまで進んでいるのか。その「現在地」と展望を探る。

 11月末、夏美さんと母リカさん(40)に案内されたのは、知人宅から近いという福岡市東区のある踏切。夏美さんは、足元の前輪を注意深く見つめ、車いすでそろそろと渡り始めた。

 ●踏切は不安だらけ

 細い前輪は可動式で回りやすい。「真横からまっすぐ進入しないと、レールの溝にはまってしまう」。徐々に筋力が弱っていく難病の夏美さんは、腕もほとんど動かせない。仮に立ち往生すれば、自力で車いすごと“脱出”するのは「とても無理」だ。話の途中で、遮断機が下りてきた。追われるように渡りきる。

 横断歩道を渡ると柵付きの歩道がある。幅が狭すぎて、夏美さんはやむなく車道を通る。「車いすは背が低くて、夜は車のドライバーに気づかれにくいので心配で…」(リカさん)

 地下鉄に乗り、天神に向かった。職員が乗り降りの際、スロープをつけるなど介助してくれるが、そのために降車駅への連絡や準備を待ち「目的の電車に乗れない」こともしばしば。車いすスペースの手すりの位置がちょうど電動スイッチの高さで「油断してちょっと触れるだけで車いすが“暴走”してしまう」。

 配慮のための設備やサービスでさえ「使い勝手」に乏しい現実。「誰かに言ったところで…」。2人はほとんどの不満をのみ込む。

 ●支え合える日いつ

 そうしたハード面などの不備を「人の手」でカバーする試みも始まっている。

 障害者など街で「助けがほしい」人、時間に余裕があり「助けたい」人が、あらかじめスマートフォンの専用アプリに登録しておき、SOSの発信があった時、その場所に駆けつけられる人をつないでいくサービス。大日本印刷(DNP、東京)が共生社会の実現を目指す社会貢献の一環としてアプリを開発、今年から福岡市などで全国的に運営しているものだ。

 夏美さんは、このサービスを週に1度、天神や博多駅でモニターとして体験中。この日も、試しに天神地下街で「支え手」を募った。

 乗り越えられない段差、狭くて方向転換しにくいエレベーター、手が届かない商品棚…。繁華街のさまざまなバリアーは、誰かが手を差し伸べれば解消できることが多い。「人に頼んだりするのが苦手」な夏美さん。リカさんは「嫌々でなく、手伝いたい人が来てくれるサービスなら、助けてもらう側も気持ちが楽」とうなずく。

 ただ平日の午後でもあり、15分待っても誰も現れなかった。

 ●迷惑顔や無関心も

 2016年に施行された障害者差別解消法は、障害のある人への配慮やそのための環境整備を、行政にも企業側にも求めている。

 夏美さんは「法律の名前はSNS(会員制交流サイト)で聞いたことがある」程度。リカさんも詳しい内容までは知らない。

 数年前、夏美さんを乗せた車を、ある店舗の障害者用駐車場に止めたときのこと。後ろ側に車いすを下ろすスロープのスペースがなかったためスタッフに伝えたところ、翌週には、路面にけい線を引いて確保してくれていた。「少しずつ、配慮が広がっているのかも」とリカさん。「でも、法律があるからしなきゃいけない、と重荷になってほしくはないし…。結局は気持ちの問題ですよね」

 夏美さんは今も、エレベーターに乗るときに「舌打ちされる」ことがあるという。人混みでは特に「歩きスマホ」にぶつかりそうになるなど「本当に怖い」。迷惑そうな視線や無関心は「気にしないようにしている」が-。

 身の回りのさまざまなバリアーに諦めさえにじませる障害者たち。法律などの「ルール」で解消できるのか。(編集委員・三宅大介)

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【ワードBOX】障害者差別解消法

 国連の障害者権利条約を批准するための国内の法整備の一環として2013年に制定、16年に施行された。国や自治体など公的機関と、企業など民間事業者を対象に、障害を理由に差別的な扱いをすることを禁じた。障害者に必要な「配慮」も求めるが、こちらは民間は努力義務にとどまる。国民も「差別解消の推進に寄与するよう努めなければならない」と定める。

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