返還後カジノ産業発展の陰で… マカオ20年、進む中国化

西日本新聞 国際面 川原田 健雄

 マカオがポルトガルから中国に返還されて20日で20年を迎えた。世界有数のカジノ産業を中心に経済成長を遂げる一方、当局は市民の言論や集会を制限。高度な自治が認められた同じ「一国二制度」でも、反政府デモが続く香港と異なり、中国との融合が進んでいる。

 11月下旬、中心部のカジノは平日にもかかわらず、多くの客でにぎわっていた。「中国本土に近いからよく来る。スロット機なら少額でも遊べる」と中国・広州から来た女性。窓口には9万香港ドル(約130万円)分のチップを換金する中国人カップルもいた。

 マカオ政府の財政収入の8割はカジノからの税収。総就業人口の15%超はカジノ関連の仕事に従事する。「機会があれば俺も高給のカジノで働きたい」とタクシー運転手はこぼした。

 英国統治時代に貿易拠点として栄えた香港に比べ、発展が遅れたマカオは1999年の中国返還後、カジノ市場を開放。大手資本の参入でカジノ産業は米ラスベガスを上回る規模に拡大し、人口1人当たりの域内総生産(GDP)は返還後5倍超に増えた。

 一方、政治的には香港と違って民主派があまり育たず、立法会(議会)も大半が親中派。北京との政治的対立はほとんどなく「一国二制度の優等生」と言われてきた。今年6月から香港で続く抗議活動もマカオには波及していない。

 「反中国の声を上げられないのは国家安全法の影響が大きい」。香港デモに参加するマカオの男子学生は指摘する。2009年に制定された同法は国家分裂や反乱扇動、政権転覆を禁じる内容。香港では市民の猛反発で制定が先送りされたが、マカオ当局はこの法に基づき市民の政治的自由を締め付ける。8月に計画された香港デモを支持する集会も警察に阻止された。

 今年に入り、当局は市街地に多数の監視カメラを設置。顔認証機能も導入する予定だ。男子学生は香港デモに賛同する仲間とインターネットで情報交換するが、「目立つ行動は避け、香港でも一緒に行動しない」と声を潜めた。

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 マカオ政府は統制強化というムチの一方、アメも用意。08年から毎年、富の還元の一環として永住権保有者に現金を支給している。来年は1人当たり約1万パタカ(約13万6千円)の支給が見込まれる。

 マカオへの訪問客の約7割は中国大陸からで、中国経済への依存度は高い。飲食店を経営する男子学生の父は現金支給を喜び、中国人客の増加も歓迎する。「多くの市民は収入さえ増えればいいと思っている。政府はカネでマカオ人の口をふさいでいる」と嘆く。

 19日、マカオ政府主催の夕食会で演説した中国の習近平国家主席は「一国二制度を貫徹することでマカオ経済は歴史的成果を得た」と強調した。マカオを一国二制度の「成功例」としてアピールすることで、抗議活動を続ける香港市民をけん制する狙いがうかがえる。

 中国政府は広東省と香港、マカオを一体化して35年までに巨大経済圏を築く戦略「ビッグベイエリア(大湾区)構想」を進める。中国本土との一体化が止まらない現状に男子大学生はため息を漏らす。「中国共産党の批判もできないなら、中国本土の地方都市と変わらない。マカオの一国二制度は既に死んでいる」 (マカオで川原田健雄)

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