北九州市・小倉にそびえる足立山…

西日本新聞 オピニオン面

 北九州市・小倉にそびえる足立山。奈良時代に和気清麻呂が足の傷をこの山の湯で癒やし再び立てるようになった、との伝承が山の名の由来とか

▼寒い冬の夜、足立山の頂から上るオリオン座に、足ならぬ絶望と悲哀を癒やされた青年がいた。後に昭和文学界の巨人と呼ばれる松本清張さん。<印刷所の夜業をすませて家に帰るとき、足立山の上にこの星が貼りついている>と記した

▼清張さんは明治の終わり、小倉の貧しい家に生まれた。中学には進めず、15歳で会社の給仕(雑用係)に。配達中、進学した同級生と街角で出会うのがつらかったという

▼19歳で画工見習いとなり、苦労して新聞社に職を得るが、ここでも露骨な学歴差別に遭遇。地位も富も関係ない軍隊生活で初めて平等を実感したという。苦難の小倉時代を<濁った暗い半生>とまで評する

▼ただ貧しくとも父母の愛に恵まれた。上の女児2人を乳飲み子で亡くした母は「きよはる(清張さんの本名の読み名)が育つように」と願を懸け、方々の家から集めた布を継ぎ合わせじゅばんを作った。父は得意の「太閤記」を腕枕で語り聞かせた

▼小倉の松本清張記念館には700もの作品の表紙がずらり。量に加え、推理小説から古代史までジャンルの多彩さに驚く。雌伏の小倉時代に培った粘りと反骨心が、オリオン座のように豊かな清張作品の星座を生んだと実感する。きょうが生誕110年。

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