映画「男はつらいよ お帰り寅さん」監督 山田洋次さん

西日本新聞 根井 輝雄

●寅さんは年を取らず、まるで幻想のように現れます

 寅さん(車寅次郎)が22年ぶりにスクリーンによみがえります。50作目となる映画「男はつらいよ お帰り寅さん」(27日から全国公開)。寅さんこと故渥美清さんの貴重な映像とともに、周囲の人々の“今”を描いています。山田洋次監督(88)に、新作への意気込みを尋ねました。

 ―50作目は、倍賞千恵子さんが演じる寅さんの妹さくらや、吉岡秀隆さん演じるおいの満男など、家族の現在を描いています。

 ★山田 さくらと(前田吟さんが演じる)博の夫婦が年を取り、満男も社会人になったところから始めよう、と考えました。物語の主軸は満男だろう、と。49作目まで、満男と(後藤久美子さんが演じる)泉が結ばれそうなところで終わりました。いずれ結婚するだろうと。だけど、夫婦になった後に問題が起きる話にすると、別れ話とかで面倒くさい。で、2人はそれぞれ別の人と結婚した後で再会する、ちょっとしたラブロマンスにしました。満男は奥さんと死別して現在は独身です。

 ―過去の作品の場面が数多く使われています。

 ★山田 一番古いのは第1作の50年前ですね。倍賞さんの青春時代。意外にも、こんなに若かったんだとは驚かなかった。普通の映画では、70代の老人が若い時代を振り返るときは若い俳優が演じます。この映画では本人がやっているので、不思議ではないですよね。吉岡さんも少年時代から映像があるし。それぞれの俳優のドキュメンタリーを撮っている気持ちになりました。50年たって人間はこう老いる、こう成長する、という変化が妙に胸を打つ。それは当初は予想もしなかったです。

 ―しかし寅さんは変わらない。

 ★山田 そう。寅さんは年を取らず、まるで幻想のように現れます。チャプリンもマリリン・モンローも年を取らないので、寅さんも同じように不思議なキャラクターだという気がします。

 ―過去の映像をどう選び出しましたか。

 ★山田 本当は第1作から全部見ればいいんだけど、時間がかかるので、僕やスタッフが覚えている印象的な場面を選びました。こっちは必要だとか、これじゃないとか、何度も出し入れしながら編集し、面白かったです。満男と泉の高校時代のカットも短く入れました。また、寅さんファンなら誰でも見た名場面も入れています。代表的なのは「メロン騒動」(15作目)ですね。あれは僕たちとしても割とうまくいった場面です。ほかにも、寅さんらしいシーンを生かしました。

 ―デジタル編集は初めてだったそうですね。

 ★山田 全作品がデジタル化され、編集作業はすごく楽でした。フィルムだといちいち回さないといけない。データだとボタン一発。また、初期の作品はフィルムが劣化しているので、映像を白黒にしようかと思ったんですが、デジタルで修復できました。一コマずつ傷を取ったり色を修正したりして、50年前の作品を今の映像と重ねられた。これまでフィルムにこだわっていたんですが…。

 ―寅さんが上映されていた時代と、今を比べるとどうですか。

 ★山田 昔の映画館は座席指定もなく、超満員のときは通路に座ってましたね。時々大声でどなったり笑ったり、活気に満ちていた。今は時間や座席が決まっている。映画館だけでなく、時代が寛容でしたね。寅さんのような、はた迷惑ででたらめな男でも許された。子どもは、大人が目をむくような悪いことをしたいもの。しかられたり警察に連れて行かれたりして成長する。僕らもスリルを楽しんで、ひどい目に遭ったけれども。今は絶対できないですから。寛容さが欠けて堅苦しい時代になったんじゃないかな。

 ―次回作については。

 ★山田 試写を見た人から「もう一つ二つできるのでは」と言われます。今はまだ全く考えていませんが…。歴代マドンナだけでなく、東野英治郎さんや宇野重吉さんなど名優も出演したので、その場面を並べるのもあるかな。

 ―また九州でのロケとかは?

 ★山田 倍賞さんをはじめ家族が元気でいて、何かの出来事があって、ふと寅さんのことを思い出す、という物語を作ることは不可能ではないですね。

 (文と写真・根井輝雄)

 ▼やまだ・ようじ 1931年生まれ、大阪府出身。54年、東京大法学部卒業後に助監督として松竹入社。61年「二階の他人」で監督デビュー。「男はつらいよ」シリーズは69年にスタートし、年1~3本ずつ公開。96年に渥美清さんが死去し、97年公開の「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」が49作目となった。

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